2月22日のロスシュラ

※猫耳猫尻尾・♥マーク・小スカ

※アホとアホしかいません

 

 

——メーじゃなくてニャーとか 山羊なのにネコじゃねえか!!

——あっ、お前にはちょうどいい、か……。

——いや待て冗談だって、な 話せばわかるっ、

 どこか遠い国では昔そう言った国家元首が無残にも暗殺されたらしい。こちらを指差して涙まで流して爆笑してきた蟹の顔面に気が済むまで爪を立ててやっても気は晴れない。

宮内にいれど安全ではないとわかったので、自室に鍵をかけた上で棚やら寝台やら机やらを手当たり次第扉の前に動かして籠城。

 この異常の原因がわかるまで、一歩たりともここから出るものか。

 固い決意とともに毛足の長いラグの上に丸まって、シュラは小さく欠伸をした。

 

***

 

 ガタンと窓枠が揺れ、ついで木枠が不吉に軋む音。文字通り飛び起きて窓に目をやったシュラは、きっとすごく間の抜けた顔を晒していたのだろう。枠ごと窓を外すという大胆すぎる方法で部屋に侵入してきた男が朗らかに笑うものだから開いた口が塞がらない。

「にゃ、ん、ぅっ……

 なんで、と言ったつもりだったのに。

「はは、シュラ、本当に猫だ」

 かーわいい、とニコニコ笑われてから口を閉じても遅かった。寝室の窓は断崖絶壁に面していて、だからシュラはすっかり安心して寝こけていたのだが、まさか下から地道に登ってくる馬鹿がいるなんて思わなかった。

「なあ、その耳本物なんだろう

 無遠慮な手から飛び退って逃れる。不用意な接触を許したせいでものすごく恥ずかしい声を蟹に聞かせる羽目になったのだから、同じ轍は踏むまい。警戒心に満ち満ちた視線も、アイオロスはまるで感じていないようだった。

「にっ!? にぁぁっ……

 不意に光速で近寄って無理やり寝台に押し倒されては素っ頓狂な声が上がるのも仕方がなかった。慌てて暴れてようにも耳の付け根をぐりぐりと弄くられると力が抜けてしまう。

 咄嗟に口元を押さえた手さえ、アイオロスの観察の対象になる。

「すごい爪だな、デスマスクの顔がストライプになる訳だ」

「ッ、にゃっ、んにゃ……

 他にはと身体を弄っている掌に尻尾まで掴み上げられてしまって、シュラはいよいよ困惑してしまった。毛を逆立てるように扱かれて、腰に甘ったるい熱が溜まっていく。

 気づけば身に纏うものは全て、不埒な手に剥ぎ取られていた。ぴるぴる震えては刺激を逃そうと奮闘している柔らかい耳に、アイオロスは意識して低く囁きかけた。

「シュラ……抱きたい」

「……っ、」

 この声に弱いのだと、わかってやっているのだからタチが悪い。だがいつもとは違いすぎる身体で行為に及ぶのは流石に不安があって、シュラは逞しい腕に弱く爪を立てた。

 話したくないせいでふるふる横に首を振るのが、それはそれであどけなくてアイオロスはそそられる。艶やかな濡羽色の毛に覆われた耳を優しく食むだけで、シュラの身体がひくんと震えた。

「……怖いか

「ぁ……っ、」

 小さな頷きで答える。怖いかと言われれば、少しは恐ろしい。だが怖いのは行為そのものではなく、こんな意味不明の不具合が出ている身でセックスなどしてますます身体がおかしくなることなのだけれど、アイオロスには何一つ伝わらないようだった。

「優しくするから、いいだろう

「っにゃ、あ…… んッ……❤」

 熱い舌が耳の付け根に這わされる。舌先に耳の中にのたくり込まれ搔き回されると、切ない快感がシュラの視界をぼやけさせた。

 節くれだった指は反対の耳をからかってから滑り降りていく。首筋から鎖骨、そして胸の頂へ。勝手の違う身体でも、そこの感度の良さは変わらなかった。

「ひにゃッ!?み゛ゃ❤ っあ❤❤」

 好き放題捏ねくり回し、摘み上げる。白い貝殻のような耳殻が赤く染まるのが見られないのがアイオロスとしては惜しいけれど、ぴこぴこと戸惑う感情豊かな耳も悪くない。

 もっと感じさせてやりたくて、わざと思い切り——痛いくらいのほうが、この恋人はよく啼くのだ——爪を立てた、そのときだった。

「にぁッ❤❤ あっ……に゛ゃあぅううッ……

「ッ……!?

 シュラの両手が、アイオロスの顔面に降り下ろされていた。

 

***

 

「んぁ……う゛ぅっ、」

「ほら、力を抜いて」

「ひ……ぁ、」

 別に怒っているわけではない。この程度の痛みなどものの数にも入らないし、痕だってどうせ一晩も寝ればすっかり消えてしまうのだ。困惑しきったシュラがおろおろと視線を彷徨わせながらざらつく舌で血の傷を舐めてくれたのもかなりよかった。繰り返すけれど、アイオロスは微塵も腹など立ててはいなかった。

 だからシュラの手首を縛めた上でうつ伏せになって尻を高く上げるような姿勢を強いているのはこれ以上怪我をさせられては堪らないからなどという理由ではもちろんない。

「……ぅ、」

「大丈夫。優しくするって言っただろう

 確かに声音とシュラの肌を這い回る手つきは優しかった。

「っひ、んにゃ、ぁ……❤❤」

 背中を撫でた右手が尻尾の根元に移り、そこを執拗に摩っては軽く叩く。そんなことをされると本物の猫よろしくシュラはうっとりと感じ入るしかなくて、ぴんと立った尾も切なく身悶えて震えてしまう。

 弓手も暇を持て余しているわけではなかった。すっかり勃ち上がって先走りを垂れ零している場所に無骨な指が伸ばされ、雫を掬い取っては後孔を丁寧に押し広げていく。

「んぅうッ……ん、にぁ……あぁっ っみぁ゛❤❤」

 腹の内側を擦るように押し上げられて膝が笑う。体勢を崩すことだけはどうにか免れて、シュラは知らず慈悲を乞うように黒い尾をアイオロスの腕に摺り寄せていた。

「んぁっ、にゃ……!?

 それがアイオロスに火を付けてしまうとも知らないで。

「……シュラ」

 握り込んだ尻尾はアイオロスの指本ほどの太さだろうか。十分に慣らしてあるから痛くはあるまい。

 残酷すぎる好奇心は躊躇わなかった。

ん゛みゃッ、あ、ひにゃあぁぁッ❤❤」

 太い指が引き抜かれた後は、アイオロス自身が挿れられるはず。そう思っていたところをあまりのやり方で裏切られて、シュラは一際高く啼いて仰け反った。後孔を犯すものを無我夢中で抜こうとしても、アイオロスにがっちり抑えられているから叶わない。

 じたばたとのたうち回る尾は、結局シュラの中をますます酷く荒らして苦しめるだけだった。

み゛ッ、ぁ、にぁっ……みぁあああぁーっ❤❤」

 尾を前後に動かす手が早まる。あっさりと一度高みに上らされて、シュラは力なく寝台に頽れた。

 

***

 

 中ほどまで淫液に塗れた尻尾が、幾度も繰り返し寝台を叩いている。

 後孔をみっちり占めたものの大きさにシュラはいつもながら低く呻かされて、敷布を熱い吐息で湿らせている。

 見慣れぬ三角の耳までもがくったり倒れて力なくて、アイオロスは思わず笑ってしまった。

「シュラ」

「みゃッ!?

 後ろから低く声をかけると、全身の毛を逆立てる勢いでシュラの背が跳ねた。動くぞ、とだけ囁いて、そのまま抽送を開始する。発情しきった雌の啼き声が、アイオロスを煽り立てて止まらない。

 肉の淵に切っ先が辛うじて引っ掛かるくらいまで勃起を引き抜いて、そのまま一息に突き立てる。最奥の奥に更に雄を捻じ込むように、腰を押し付けてぐりぐり掻き回す。腹に付くほどに反り返ったシュラ自身や赤く色づいた胸の頂を弄くり回し、すべらかな白い背に所有の証を刻み付ける。

 アイオロスによってよくよく躾けられた身体は何をされても感じてしまって、シュラの理性を毀していく。

「にゃぁっ、んぅ❤ にぃ、ぁ……❤❤ っあ、みゃああっあぁーッ❤❤❤」

 ずちゅんと腹の奥を犯されて。快楽に浸された身体はあっけなく白濁をぶちまけていた。

「シュラ

 弛緩して敷布に突っ伏しそうな恋人がぶるりと身を震わせる様に、アイオロスが小さく瞬く。前に一度寝台をぐしょぐしょに濡らして汚してしまったシュラがその後尋常でなく落ち込んだのを、ふとその瞬間に思い出した。

 だから咄嗟に片足を持ち上げて照準を逸らしたのはこの射手座の青年なりの気遣いとか優しさみたいなもの、なのかもしれなかった。

「はは、シュラ、猫なのに犬みたいだ」

に゛ゃッ、あ……にぁ゛ッ❤❤❤」

 白亜の床を叩く音が喧しい。畜生の用便の姿勢を強要されているというのに、シュラはしだらない笑みを浮かべて虚空を見つめているだけだった。

 大きな水溜まりをベッドサイドに広げて、恥ずかしい排尿もやがて終わる。いっぱいいっぱいなのはシュラだけで、まだ一度も放ってはいないアイオロスがこれで終われるはずがない。

「……ぁ、んぁ……っにゃ……❤」

 どこか切なげなか細い啼き声。その甘さにうっとりと酔いしれながら、柔らかく蕩けた媚肉にアイオロスは再び楔を打ち込み始めた。

 

初出:2017/02/22(Privetter)