ずい、と差し出された黒々と長く大きいソレを見つめて瞬き。全く同じものを二本、左右からぐいぐい押し付けられて、シュラは困惑して眉根を寄せた。
「あ、アイオロス、アイオリア……?」
「日本へ行って買ってきたんだ!」
問い掛けの視線に答えたのは兄。だが相変わらずその説明は言葉足らずで、シュラには兄弟の思惑がまるでわからない。勝手に満足している兄の後を引き継ぐように、アイオリアが口を開いた。
「この日にはこの長いスシロールを食べる習慣が日本ではあるらしいのだ、何故だかよくわからんが」
そこが肝要じゃないのか。突っ込みたいけれど酷く楽しそうな二人の前であれこれ言うのも躊躇われて、シュラは躊躇いに視線を彷徨わせる。わざわざ日本まで行って彼らが自分のために調達してきてくれたものがあるのは、それだけで嬉しくてたまらない。
たまらないのだ、けれど。
「それで、俺は一体どうしたらよいのだ?」
「ああ、食べてくれ! 北北西を向いて!」
「はぁ……?」
案の定理由などは知らないらしい。椅子に掛けさせられたまま強引にぐるりと壁の方を向かされて、再び太いものを突きつけられる。
おずおずと唇を開いたところで、それは潜り込んできた。
「っ、ン! う、うぅ……! っ、ぷは、ぁっ……!」
慌てて噛み千切り咀嚼して呑みこもうとするけれど、アイオロスの手は待ってはくれない。苦しさに頭を振り、思わずアイオロスを押しやる。酸素を確保して流石に文句の一つでも言おうとしたところで、今度はアイオリアのものが押し込められる。
「っん……ぐぅ……!?」
「シュラ、だめだぞ。“エホウマキ”を食べている人間は、食べ終わるまで口を聞いてはいけないのだ」
「むぅ、う……んうぅッ……っん、」
“エホウマキ”。それがこいつらの名らしいがシュラはそれどころではない。
右手はアイオロスの腕に縋り、先ほどまでしゃぶっていた先端を必死で押し留めている。左手はアイオリアの拳を握り、せめてシュラが対応できるスピードでそれが入ってくるように慈悲を乞う。
侵入者は十分な太さを持っていた。全てを収めるにはシュラは小さい口を一杯に開けなければならなくて、飲み下せなくなった唾液が唇を濡らし顎を伝う。みっともない、と思ったのは一瞬だけで、すぐに突き込まれたものの相手に戻らざるをえなかった。
「ン、うぅ……っく、ぁ、」
顎が疲れて痺れてくる。少し休ませてほしくて一旦口を噤んだ筈なのに、呼吸だけに専念したいそこに再びアイオロスのものが迫る。薄く開いている場所に強引に捻じ込まれては、シュラに抵抗の術などない。ずん、と奥まで突かれて視界がぼやける。
「……兄さん、やりすぎですよ。シュラが苦しそうでしょう」
「ふふ、そうか? シュラはこのくらいがいいだろう……? 好きなだけ食べていいからな」
「ふぁっ、んぅ! っく、んぐぅ、う……!」
嘔吐きそうになるのを押さえるので必死で、抗議の一瞥さえ送れない。んく、と何度も喉を鳴らし、口内に溜まるものを呑み込んでも、責め苦の終わりが見えてこない。
もう一度顔を逸らし息を吸おうとしたところで、またアイオリアが切っ先を突き付けてくる。これ以上柔らかい喉の奥まで占められてしまうのが恐ろしくて、シュラは自分から媚びるようにそこに口づけていた。
「ん、ン……は、ぁ、」
小さく口を開け、おずおずと先端を咥える。また無慈悲に突っ込まれては堪らないとアイオリアを見上げれば、何故だか若獅子は顔を紅くしてあらぬ方を向くのだった。
弟の困惑がわかって、アイオロスが忍び笑う。兄の大きな掌に髪や首筋を撫でられて、シュラはうっとりと目を細めた。いつだってこの手に撫でられると、疑問や緊張や恐怖といった感情が、見る間に溶けて消えてしまう――そういうところが“チョロい”と、悪友の一人は肩を竦めるのだけれど。
「もう少しだから頑張れるな?」
「ぁ、ん……ん、んくぅ、」
いつものように言葉で答えようとして、慌てて僅かな頷きに変える。
交互に兄弟のものに唇を寄せ、与えられたものをひたすらに飲み下す。
「む、っぐ……っ!?」
最後の一口。ようやく解放されると安堵したところで、無意識に油断してしまったらしい。懸命に咀嚼したどろどろが喉に引っ掛かり、シュラは激しく咳き込んだ。
「シュラ、大丈夫か?」
「ほら、水だ」
優しく背を擦るのは弟。水を差し出すのは兄。はふはふと荒い呼吸の合間に冷たい液体を流し込んで、そうしてシュラはようやく深く息を吐くことができた。
弛緩する身体を抱きとめているアイオロスの胸板が、腕が、掌が熱い。捧げられているアイオリアの視線に、はっきりと情欲が籠っている。
それを受け止める自分の肌がぞくりと粟立ったのをはっきりと感じて、シュラは静かに目を閉じた。
※この後滅茶苦茶下のお口で恵方巻き(隠語)食べた。
初出:2017/02/03(Privetter)