牡牛山羊♀

 素裸のまま寝台に正座し握り拳を膝に置いている様は、何だか妙に様になっていて勇ましい。

「その、すまんが……頼む」

「あぁ……いや、こちらこそ……」

 俺でいいのかとは問わなかった——頭を垂れるシュラの表情があまりにも真剣だったから問い損ねた。だか一つだけ確認しておきたいことがあって、アルデバランは口を開いた。

「実はだな、シュラ」

「なんだろうか」

 真っ直ぐに見つめ返してくる黒曜石の瞳。顔のつくりが大きく変わったわけではないのに随分とたおやかに見えるのは、身体や声が女性のものであるからだけではない気がする。

 何だか別人の、ただの女性に告白するようで気が引ける。

「……その、だ。経験がないのだが、」

「……は

「経験がないのだが、大丈夫だろうか」

 ぱち、ぱち、ぱち、と瞬き三回。もともと白い肌に影を落とす睫毛は長かったように思うけれど、それがますます長く量を増していることにアルデバランは気づき、違和感の正体に思い至った。得心がいって頷いているところに、言葉を詰まらせたシュラと溜息が聞こえる。

「ええと……す、すまん……」

「いや、お前が謝ることは何も、」

「だが、つまり、だ……初めてが俺などになってしまって……」

「シュラ、詫びてくれるな」

 別にこの年まで機会がなかったのはシュラのせいではないことなので、詫びられるとむしろこちらが居た堪れない。

 慌てて顔を上げさせて、改めてアルデバランは低く問うた。

「俺で構わんか シュラ

「……よろしく頼む」

 わかった、と言いたいところなのだが、それでどうすればいいのかがイマイチよくわからない。指示を請うように眉根を寄せたアルデバランにシュラが恥ずかしくなって早口になる。

「手間をかけんでいい。俺が適当に慣らすからそこに、」

「それではお前は苦しいだけだろう」

「……別に善くなりたくてするわけではない」

「俺が嫌だと言っているのだ……シュラ、どうすればいい」

 真摯な目。直向きな眼差しにシュラは負けて——と言うか、いい加減に済ませてはこの実直な男がこの行為のやり方を引き摺るのではと気が引けて——顔を逸らして息を吐いた。

 羞恥心を吐き捨てて、アルデバランに向き直る。

「……まずはキスくらいするだろうな」

「こうか

「ふ、ふ…… こんな児戯をしてどうする」

「む……すまん。こう、か

 合わせるだけの拙い口づけには悪いと思いつつ吹き出してしまう。照れて頭を掻いたアルデバランの二度目のキスも、やはりとても初々しい。遠慮がちに入ってきた舌を優しく迎え入れて、シュラはゆるゆると目を閉じた。

「ぁ、ん……」

 鼻にかかった甘い吐息はどちらのものだろう。絡ませ合った舌から蕩けていく心地がする。本当ならばここでスマートに服を脱がして愛撫に移るところだけれど、既に一糸纏わぬ姿だしそもそも口が塞がっているし、シュラは何も言わなかった。

「っ、ふぁ、」

 息が上がる。いつもは適当に酸素を補給しながら長らく駆け引きを楽しむけれど、肺活量からして違う身体はどうにも勝手がわからない。息苦しさにアルデバランの肩を押しやると、銀糸が二人を繋いで、切れた。それだけで赤面する年下の友人に薄く笑う。

 アルデバランに夜着を脱ぐように促して絶句。

「どうした、シュラ

「な、んでも……ない」

 などということはなかった。体格から想像できてはいたがそれをもはるかに上回る逸物が下着から零れ落ちて、シュラは俄かに不安になる。これが自分に——というか、人間の女に——入るのだろうかと、口に出さずに考える。

 つい抱いてしまった怯えを振り払い、続きを請う目と向かい合った。

「愛撫、は……上から下ろしていくのがいいだろう。女の方も心の準備ができるからな」

「む、なるほど……」

「指でも舌でも唇でも、決して乱暴にはするな。普通の女の身体はお前が思うよりはるかに脆いぞ」

「……わかった」

 恐る恐る伸ばされた手が、ごくささやかな二つの丘陵を揉み上げる。ふわふわとソフトで優しい手つきには及第点をやれるだろう。だんだん乳輪が膨らんでより強い刺激を求め始めたところで、シュラはそこに手を導いてやった。

「ッん

「すまん、痛むか

「あぁ、っいや、もんだいない……っ、あ、」

 心得たとばかりに指先で捏ねられ、短い吐息が上がってしまう。心配げにアルデバランが覗き込もうとするのを止めて、シュラは続きを促した。

 つん、と恥ずかしく上を向いた乳首に、アルデバランが唇を寄せる。口内に招き入れられて可愛がられ、腰に重く甘い痺れが落ちていく。括れた腰やぺたんこの腹を掌が滑り落ちていって、しかしそこで無骨な掌は止まってしまった。

 薄く控えめな下生えを爪の先で何度か梳いて、その後がよくわからない。恥じ入りつつもまたも教えを請う眼差しを受けて、シュラは呼吸を整えた。

 寝台から身を起こし、年下の友人と目を合わせる。

「それから挿入になるが……そうだな……お前は規格外にでかいから、女とするときはよく慣らしてやることだ。一度痛い思いをさせたら二度目はないぞ」

「ううむ、そうなのか……」

 しかし慣らすってどうやって 疑問がはっきり顔に書いてあってシュラを思わず苦笑させる。サイドボードの引き出しからローションを出して、アルデバランに持たせてやった。

「乾いているところに突っ込んでは怪我をさせるのがわかるだろう。こういうもので濡らしながら中を広げ……ッ、つめたい、から……まずは自分の手で広げて温めてくれ……

「あ、ああ、すまん」

 いきなり腹や脚の間に垂らされて、途中で声が上擦ってしまう。二回目からは丁寧に掌の熱を分け与えられたとろみが落ちてきて、シュラは細く息を吐いた。ここからが正念場なのだ、緊張していても仕方がない。

 胸への愛撫で僅かに濡れている女の場所に、節くれだった指を導く。

「っ、お前の……指は太いから、いきなり突き立てるなよ この、くらい……まで指先を挿し込んで……中の状態を、把握するんだ」

「わかった……それで、シュラのここは今どうなんだ

 それを俺に言わせるのか!?と絶叫したくなって抑え込む。蟹あたりにニヤニヤと問われたら間違いなくぶん殴っているのだが、至極真面目な顔でアルデバランに問われたら言わざるを得ない。

「す、こし……濡れて、開いてきている、から……」

「っ、そ、そうか」

 羞恥が勝って言葉が出ない。耳朶まで真っ赤に染まって俯いてしまったシュラに流石に察して、アルデバランまで顔を赤くしてあらぬ方向へ視線を逸らした。とにかく、と短い黒髪を揺らしシュラは話を切り替えた。

「いずれにせよ挿れる前には指で拡げなければダメだからな、お前のようにデカい奴は尚更」

 寝台に背をつけて枕に顔を埋める。シュラの恥じらいがわからないほど鈍くはないからアルデバランも何も言わず、ただ飲み込ませた指先をじわじわと動かして秘所を掻き乱し暴いていった。

「んくっ、うぅ……く、ひィ、」

 いつしか太い指が三本みっちり飲み込めるほどに、狭い肉の襞は緩んでいた。もはや人工の潤滑剤などに頼る必要もないくらい、恥ずかしい粘液が溢れてアルデバランの手を汚している。

「挿れる、からな……

 こんなところでも問い掛けになってしまうところが青年の人のいいところで、シュラは熱い吐息の下で微かに微笑んで頷いた。

 完全に臨戦態勢になった勃起はさらに大きさと迫力を増していっそ禍々しいほど。努めて恐れを押し殺し、出来る限り身体の力を抜く。

「あぁっ、んぐ、うぅぅ……

 最も張り出した切っ先を咥えるだけでも、酷い圧迫感を伴った。気遣わしげに見下ろしてくるアルデバランは急がず焦らず、全てを収めるのに長い時間をかけることを厭わなかったが、それで受け入れた質量が目減りすることはない。

 ようやく根元まで受け入れたときには、シュラはもう汗だくで息絶え絶えだった。

「っは、ひ……はーっ、はッ、はぁ、ぅ、」

「シュラ、大丈夫か

「ら……じょ、ぶ……」

 大丈夫にはとても見えない。いっぱいに見開かれた目からは今にも涙が零れ落ちそうだし、舌が覗く口は閉じることすらままならず、端からは唾液がたらりと流れている。

 大きな掌で頭を撫で、背を摩り、アルデバランは根気強くシュラを待った。そんなことは教えられていなかったけれど、多分間違ってはいないだろう。

「……落ち着いたか」

「……ん、うごいて、っあ、だ、いじょうぶ、だッ…… こし、うごかして……いい、からっ、」

 息が上がる。話すのをやめてしまいたいのにおかしなところで律儀なシュラは説明を放り出すこともできず、上擦った恥ずかしい声で言葉を紡ぐ羽目になる。

「あ、っア……それ、からっ、むね、さわってっ……ひゃぅっ、ん…… ちくび、いじ……って……

 催促しているわけじゃない。双方わかっているはずなのにはしたないお強請りにしか聞こえなくてまた煽られる。

「くひっ、やぁぅうッ あぁあぁぁっ、ん

 尖り切って赤く染まっている頂きをコリコリと解すように摘まれて、愉悦に頭のてっぺんから足先まで浸されてシュラは啼いた。完全に雌の快感を通す回路が組み上がった身体は、どこを触られても気が触れそうなほどに感じてしまう。

 そしてその全てが、肉の襞のうねりに変わる。あまりに懇ろに舐めしゃぶられて、女の味を知らないアルデバランに長く耐えられるはずもなく。

「ッぐ、シュラ そろそろっ……

「なかっ……にぃ あッ、やぁあ、ん、ッひ…… だし、てっ……んぁああぁああっ

「……う、おぉっ

「あ……!! はぁ、は、はっ、ひ……」

 とんでもなく大きいものが更に質量を増して膨れ上がる。凄まじい熱が子宮から全身に広がっていって、幸福の極みのしどけない笑みが隠せなくなる。

 これも教えられてはいないことだけれど、余韻に痩身を痙攣させて視線さえ定まらないシュラからはどうにも離れがたくて、アルデバランは細い身体を抱き込んだ。痛いほどに勃起を締め上げていた肉襞は少し緩み、暖かく柔らかく雄を包むだけになる。

 男に戻るためには情交が不可欠とだけは聞いているけれど、これでシュラは元に戻れるのだろうか。

「万が一戻れなかったら……ううむ……」

 のめり込みそうな自分がいて、少し怖い。

「……っ、あ……ん、」

 小さく身を震わせたシュラは本格的な眠りに入ってしまったらしい。先々のことは後で考えればいい。今だけは諸々を棚上げして、アルデバランも瞼を下ろした。