・メインは触手×デジェルです

・デジェルの喘ぎ>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>カルディアの喘ぎ

・小スカ

・二人はまだティーンエイジャーという設定



水が腐ってんじゃねーのか、なんて顔を歪めたあの時の呑気な自分を殴り飛ばしたい。

どろどろと重ったるく生臭い水は、今や明らかに意志を持ってデジェルとカルディアに襲いかかっていた。

 

「おい、デジェル おい!!

「カル……ディア、」

 

友の声が掠れて消える。幾度も怪しげな滑りを持つ水の中に引きずり込まれては辛うじてカルディアに引っ張り上げられているデジェルは、知性をすっかり熱に溶かしてしまった目で親友を見た。

二人とも衣服はどろどろになって失われて久しく、薄暗い森の中とはいえ目の前のデジェルの身体くらいははっきりと見える。

完全に勃ちあがってしまったものを視界に捉えられたと知って水瓶座の青年は恥辱に眉根を寄せて悶えた。

 

「や、め……見るな、カ……ディア、見な……で、」

「デジェルっ、んぁ、あッ……クソッ……

「ふぁあっ やぁ、あああぁッ!!

 

いよいよ頽れそうな痩身を無理やり抱き寄せ、守るように腕の中に閉じ込める。わけのわからぬ液体に濡れて感度を磨かれた肌は、互いに擦り合わせられるだけで思いも寄らぬほどの快楽を齎して、二人とこの異形以外、生きるものの存在しないであろう魔の森にはしたない声が響く。

どうにかこの湿地から脱せるよう、せめてこれ以上水に引き込まれぬよう。初めははっきりと目的があった動きが快感を追うための無為なものになるのにそう時間はかからなかった。

 

ふつりと勃った乳首が擦れ合う。男同士だし自他共に認める親友同士であるからして共に湯を浴びたことくらい数え切れぬほどあったけれど、こんな風に淫媚な吐息で触れ合って快感を分かち合ったことなどあるはずもなく。

ガクガクと足をみっともなく震わせて自分に縋りつく友の細さに、カルディアは改めて驚いた。氷に閉ざされた地で少年時代を過ごしたデジェルの肌は文字通り雪のように白く、カルディアと比べると薄い胸板の頂は恥じらいの薄桃に色づいていた。

倒れ込まぬよう力の萎えた両の足で懸命に泥濘を踏み締めれば、滾った下肢さえも触れ合ってしまう。

 

「ひゃうっ、あッ、あっ、やああぁーっ

「っひ、ん、うくぅッ……

「や、あッあ……やだ、いやだっ……

 

遂には口の端から唾液まで垂れ零して嫌々と首を振るくせ、より必死になって腰を擦り付けていたのはデジェルの方だった。いつだかにカルディアが自涜について話を振ったときも顔を不快げに顰めて取り付く島もなかったから、もとより性に淡白で己を律する力が強かったのかもしれない。だからこそ己の意志を超えたところで肉欲が暴走した今、身の内で暴れる熱にデジェルは半ば狂乱の態だった。

膨れた乳首をカルディアのそれに押し付ける。勃起をはしたなく擦り合わせて慰め合う。

己を支えてくれている親友の腕にさえ擦り寄って快感を得てしまっているデジェルが、もはや昂りを直接握って扱き立てずに耐えているのが奇跡だった。

 

「る……ぃ、ア……見る、な……見な……でぇ……

「っく……

 

やがて痩身が引き攣れたように震える。譫言のように見ないでと繰り返しながら、デジェルはカルディアの前で全てを吐き出していた。

白濁をカルディアの腹にかけ、とうとう立っていることもできなくなったデジェルがとろみを持った水の中に這い蹲る。

そのまま中へ中へと沈んでいきそうになるのを必死に引き上げようとした、そのときだった。

 

「ひッ!? いやだっ、やッ、うあぁああぁッ

「デジェ……ル……

「よ、よせぇっ、 はなれろおぉッ!!

 

遂に揺蕩う水の形をかなぐり捨て悍ましい触手に姿を変えた異形が、カルディアの親友を宙に吊り上げる。それを救出すべく動こうとしたカルディアの両手両足もまた、得体の知れない感触の拘束具に縛められて動かせない。

無二の友が両膝を無理やり開かれ、潰れてひっくり返ったの蛙のような惨めな姿勢を取らされていることがカルディアを怒りで熱くしたが、デジェルが声を荒げたのはそれ故ではない。

 

「いまっ、いまは……やだっ、ひィうッ イッて、イッてるから……あっ、やぁ、あぁっ!!

「お前、何されて……ッ!?

「すうな、いやぁ……すわな……で……ひあああぁっ

「ふ……ざけやがって…… デジェルから離れろ

 

屈辱的な体勢に一瞬気を取られて気づかなかったものの、達したばかりの場所に半透明の何かが纏わりついて蠕動していた。カルディアの位置からは見えないが、内側に糸のような繊毛をびっしり生やしたそれは敏感な場所に恐ろしいほどの快楽を齎してデジェルを狂わせていた。

立て続けに二度目の絶頂に堕とされた身体が滅茶苦茶に跳ね回って痙攣する。醜態と切り捨てるにはあまりに痛々しい親友の姿に、カルディアは無駄と知りつつも声を荒げた。

吐き出された白濁が触手の中を抜けていくのを見て息を呑む。

 

滾りを収められない場所を陵辱するだけでは飽き足らず、触手はデジェルの身体を這い回った。

脇や腹を這いずり、臍の中に頭を潜り込ませ、足の指に絡みつく。自由が残されていたのは首から上だけで、デジェルは無我夢中で頭を振っては首を仰け反らせ、文字どおり聞く耳持たぬ水棲生物に慈悲を乞うていた。

 

「だめっ、ほんとに、いやだあぁあッ やだぁ……も、やめて……っぎ、ひぃッ!?

「デジェル!!

 

腿に絡みついていた一際太い一本が、ついに潜り込む先を見つけたようだった。滑りを持ったそれがひくつく窄まりをぐいぐい押して、中に身を滑らせようとする。

いくらなんでも、これ以上は。散々に醜態を晒したとはいえ、さらに辱めを受けるのは耐えられなくてデジェルは歯を食い縛って後孔を締めた。ぬるつく触手から逃れようと、ほんの僅かばかり動く尻を振る。その様を唖然としたカルディアが見ていることなど、最早思考の片隅にも残っていなかった。

 

それは陥落が目前に迫る、酷く虚しい抵抗だった。そんな獲物の反抗にさえ焦れたのかはわからない。脇腹をずりあがって上ってきた二本の触手が、震える両胸の頂に絡みついた。

 

「きゃうッ!? ひぃ……うぁああああぁっ!!

 

不意打ちで駆け抜けた快感に、犬のような情けない鳴き声が上がる。後孔への意識が逸らされた瞬間を狙って、半透明の触手はデジェルの身の内にのたくり込んでいた。

排泄のためにしか使われたことのない器官ををいっぱいに占めたそれが、好き勝手に蠢いてはひくつく媚肉を揉み回す。ずるずる抜けては凄まじい勢いで胎内に戻り、奥の奥まで貫いて暴れ回る。

正体不明の生物から滲む液体はいまや直腸からもデジェルの身体中に染み渡り、下肢を中心にいっそ狂ってしまいたくなるほどの疼きがデジェルを苛んでいた。

 

「ひぃああ、んっ、うぁんッ、いやっ……くる、くる……

「しっかりしろって デジェル、デジェルっ!!

「き、きもちいいの……きちゃっ……いやだっ、やだッ、やぁっあぁああッ!!

 

前立腺をごりごりと突かれ、まさしく絶頂に押し上げられて、またも勃起が精液を吹き出す。それをそのまま触手に吸い上げられて、カルディアが耳を塞ぎたくなるような惨めな声でデジェルは喘いだ。

がくりと項垂れたデジェルの唇から、唾液が溢れて水面に落ちる。けれど淫虐な責めはなおも続いて、すぐさまデジェルは顔を跳ね上げた。

 

「ひぃィぁああああっ!! も、むり、むりっ、ひィん、ああぁあッ!! あ、あたま……へんに、なっちゃ、あ、やら、っんぐぅううううーッ!?

 

絶え間ない望まぬ快楽の中で、商売女ですら顔を歪める嬌声の合間にデジェルは啜り泣く。足の爪先から髪の一筋まで責め苦に晒され、甘い苦悶を垂れ零す唇までも口枷に犯されて、聖域が誇る水瓶座の黄金聖闘士もいまや哀れっぽい呻き声を鼻から漏らすばかりだった。

 

「んっ、むぅ……んむううぅっ…… むぐっ、う、んんぅうぅ!!

 

無数の肉瘤を生やした触手に乳輪ごと吸い上げられ、無遠慮に噛み締められては揉み転がされる。もう片方には極めて細い数本が群がって、きゅうきゅうと締め上げられた乳首の先端が執拗に小突き回されいじめつけられるのだった。

気づけば赤子の腕程もある触手を受け入れさせられている窄まりの周りにも、同じものが纏わり付いて感度を磨かれた場所をしつこく撫で回している。

自由になる範囲でなんら意味もなく足の指先を開いては閉じ痙攣させる、その足の裏さえも触手の餌食になって快感を練り込まれていく。刷毛のような形をした触手が内腿を這い回ったかと思えば、弾力のある数本が子供の柔らかさを残した尻を揉みしだき、ひっ叩く。

脇腹を擽られてくぐもった悲鳴を漏らした次の瞬間には喉奥を気味の悪い液体の塊で強く突かれ白目を剥いて、波のように襲い来る感覚にデジェルは揺さぶられ翻弄され続けた。

淫猥な踊りを続けていた腰がまたもびくびくと細かく震え、随分と薄くなり量も減った精液が搾り取られる。

 

「んぶっ、う……むぅうううッ、んーッ んんぅうッむうぅっ!!

 

痩身が何度痙攣し極めさせられたか、具に見ることを余儀なくされているカルディアでさえ今となってなってはわからない。

ただ当初の勢いをなくした吐精を、この異形が不満に思ったのだけは間違いなかった。

デジェルにもカルディアにも見えないところで、触手は我が物顔で水瓶座の聖闘士をひたすらに貪る。

勃起を覆っていた触手が、その身の内から細長い一本をひり出して。

 

「ひぎっ、いッ!? そこ、そこだけはぁっ!!

 

ぷは、と唾液と謎の液体でてらてら光った唇からようやく肉棒を模したとしか思えぬ触手を吐き出す。慌てて呼吸を貪りながら、デジェルは慈悲を乞う言葉を繰り返し紡いだ。繊毛をびっしり生やした触手に尿道をこそがれ、磨かれて、挙句男を雌に堕とす勘所を後孔を犯す触手と合わせて挟撃されて、赤い舌を唇から零してデジェルは怯えた。

 

「やぁ、やぁあ……らめ、ゆるひへぇ……!!

 

贄の抵抗も哀願も狂死さえも意に介さぬ触手の動きに躊躇いはない。僅かな白濁を決して漏らさぬように吸い上げながら尿道を這いずっていった異形の先端は、ついにその終着へと辿り着いたようだった。

最後に用を足したのは何時だったろう。それなりにたっぷりと液体と溜め込んだそこに、しかし異形が求めるものはない。

腹立ち紛れ、などという高度な感情があるのかはわからないが、触手はそこから抜け出るのではなくそこで暴れ回るほうを選んだ。

 

「う、ぎーーッ!?

「ひっ……デジェル!?

 

その瞬間、デジェルは声さえ出せなかった。

薄い腹筋の下でのたうつ触手ははっきりと外側から見て取れて、陵辱の傍観者にされているカルディアが蒼ざめた。

隘路をみっしり締めた触手に敏感すぎるそこを擽られた上、体内の小水を掻き回される。

身体中を愛撫する触手の動きも止まらぬまま、それはいよいよ頓死してもおかしくないほどの責め苦だった。

 

「そこっ、ちがッ…… やらっ、やぁ、も……せいえき、でないからあぁあっ……ひぃい、あっ、やあああぁああぁーッ!!

 

そこは違う、出ないって言った、言ってるのに……と地団駄さえ踏みそうな幼さで噎せて叫び、いよいよ癇癪を起こしたようにデジェルは泣いた。鼻水まで垂らして泣き喚くものだから、あらゆる体液に塗れた顔は知を司る聖闘士を敬愛する従者や候補生たちが見たら卒倒しかねない酷い有様だった。

確かにその申告には噓偽りなどなかったようで、腫れ上がったそこからはもう一滴の精さえも絞り取れない。

それでもなお名残惜しげに後孔と尿道、弄られすぎて小指の先ほどに腫れた乳首を撫でくり回して、それからようやく触手はデジェルから離れていった。

 

「ひ、ぐっ……ん、」

 

不規則に痩身が痙攣する。ぽかりと触手の形に開いたアヌスから止め処もなく粘液が溢れ腿を伝う。勃ちあがったままの雄からは淡い黄色をした液体までもがちょぼちょぼ垂れ流され、それでもデジェルは恥じ入ることさえなく虚空を見つめていた。

両腕を支える二本は残されていたから辛うじて水の中に沈まずに済んでいるものの、陵辱の限りを尽くされた意識ははっきりしない。拘束を引きちぎらんとする勢いで腕を伸ばし、親友の名をカルディアは繰り返した。

 

「デジェル しっかりしろ、デジェル……デジェル!!

 

離せ、離れろと。怒りに任せて縛めを強く引いたのが悪手だったのかもしれない。

たった今その存在に気がついたでもいうように。不満げに水面を滑っていたあの触手たちが、ゆるりと鎌首を擡げカルディアのほうを視た

 

「や、やめろ……来るんじゃねぇ……

 

拒む声がみっともなく震えたことに、舌打ち。挑むように睨み据えたところで異形の動きは止まらなかった。

震えた身体が、勝手に後退りしようとする。その動きが拘束に妨げられたところで、数え切れぬほどの触手がカルディアに襲い掛かっていた。

 

「ひぐっ、んんうぅッ

 

デジェルがされたように、勃起の先端に絡みつかれて耐え切れず放つ。散々に絞られ切ったデジェルのそれと違い吐精に勢いがあったからか、触手たちは他の場所まで責め立ててこようとはしなかった。

精液を吸われる快感に身悶えしながら、親友の名を必死に呼ぶ。

最初はほとんど意識のなかったデジェルが、十数回の呼び掛けの末に瞼を震わせた。幾度か瞬いたデジェルの瞳に再び自分が映ったと知って、安堵のあまり涙が零れそうになる。

 

「か……ぃ、あ、」

「んッ、ひぁんっ、デ、デジェル……

「か、る……でぃあ、」

 

叫びすぎて喉が切れたのか、或いは快感から逃れるため口内のどこかを噛み切ったのか。デジェルの口の端からは血が垂れて白い肌を伝っていた。

それを拭ってやりたくて、カルディアは不自由な身をもがかせる。

そのとき、およそ人間の心を解すとは思えぬ異形は、思いもかけない行動に出た。

 

「ひっ!?

「うぁッ!?

 

あれほど頑なに二人を引き離していた触手が今や、無理やり二人を引き寄せようとしていた。

その意図はすぐに知れる。

あれだけ吐き出させられたというのに、奇妙な液体の効果が抜けず、デジェルの雄はいまだ昂ぶったままで。その勃起が適当に入口を撫で解されたばかりの後孔にあてがわれて、二人は我を忘れて抗い始めた。

 

「いや、だ……いや、やめて、くれ……やだぁっ!!

「ふ、ざけっ……よせっ、やめろッ……やめろ!!

 

ガクガクと腰を振って挿入を逃れようとする行為は、端から見ればさぞ滑稽だったことだろう。

けれどこんな屈辱と絶望だけは受け入れてしまうわけにはいかなくて、二人はしばし惨めな舞を続けていた。

やがてそんな余興の時間にも終わりが訪れ、異形の数本が二人の腰にするりと巻きつく。

そのまま一息に或いは貫かれ、或いは貫かせられ、二人の嬌声が無人の森に木霊して消えた。

 

「う、そだろ……な……で……っ、あ んぁっ、ひィ、ああぁぁあっ!!

 

親友の雄を無理矢理に受け入れさせられて、駆け巡ったのは途方もない快感と悦びだった。

二度目だというのに先程より多くの精液を吐き出して、カルディアは愕然と目を見開いた。

身体の震えも溢れる涙も止められない。後孔が勝手にデジェルを食い締めて、双方に快楽を与え始めてしまう。

 

「やっ、んぁあああぁッ!! や、いやぁっ、ひぃあぁッ、」

「んッ、くうぅ……あぁあああっ デジェ、ル……デジェル、」

「っ、あ ごめ……なさ、かるでぃあ、ごめん……なさい、ごめ……い、」

 

射精という区切りなく快楽を練り込まれ続け、先程から心身を辱められ痛めつけられ続けてきたデジェルにはとうとう限界が来たようだった。壊れたように同じ言葉ばかりを繰り返している目の前の親友を見て、カルディアは唇を噛み締めた。

震える身体を抱き締め、泣き濡れた頬を拭ってやりたくとも、そんな簡単なことすら叶わない。

涙に霞み、強く突き上げられるせいでぐらぐらと安定しない視界に、不意に見知らぬものが飛び込んできたのはそのときだった。

 

「えっ、ン……ひぁあっ な、ん…… これ、」

 

こんなものは先程まで確かに存在しなかった。その醜悪な肉の塊は心臓ほどの大きさで二人の周りを動き回り、時折血管のようなものを浮き上がらせて脈打っていた。

直感が告げている。あれは何か、この異形の生命の根幹に関わるようなものだ、と。

浚われそうになる意識を必死に繋ぎ止める。正気の代償に右掌からは止め処もなく血が溢れ水面を叩いたけれど、今はそれも気にならなかった。

 

「く……らい、やがれぇっ……

 

不意の隙を突いて、右腕から触手を振り払う。最後の力を指先に込めて、カルディアは最初で最後の一撃を放つ。

 

「あ、くそっ……!!

 

伸ばした腕は届かない。けれどその先を一筋の光が駆けていく。

 

それがあの肉塊を貫いたところで、カルディアの視界は闇に閉ざされていた。



***



重い瞼を持ち上げれば、そこは見知らぬ天井だった。

 

「気がついたか」

「エ……ル、」

「無理に起きなくていい」

 

叫びすぎた喉からは血の味がして、とにかく水が欲しかった。制止を聞き流して身を起こしたのを見て察したのか、エルシドが水差しを手に近づいてくる。口の端から零すほどの勢いでそれを干して、カルディアは大きく息を吐いた。

冷たい水で頭が冷えて、ようやく記憶がはっきりしてきた。

人を呑み込む迷いの森の調査を命じられて、カルディアは親友とともにある森を訪れていた筈だった。

青銅や白銀がいくら調査しても、聖衣を纏った聖闘士を前にしたその地は沈黙したままで。

鬱蒼と茂る森は太陽と星々の加護を受けた聖衣を恐れる。聖衣を纏わぬままにそこへ繰り出すという案が出たのも致し方ない。

年嵩の黄金聖闘士たちは皆それぞれに手の離せぬ任務を抱えていて、結局その勅命は、黄金聖衣を賜ったばかりの少年二人に与えられたのだった。

 

「そうか……俺たち、任務に失敗して……俺たち……俺たち、」

 

頭を押さえたカルディアは小さく呻いて、直後上掛けを跳ね飛ばしてエルシドに詰め寄った。

 

「デジェルは!?

「無事だ。そこで寝ている」

 

何よりもまず親友の身を案じる言葉に、エルシドの視線が悲しげに和らぐ。聖剣を宿した右腕が指した先を見れば、確かにもう一つの寝台でデジェルが寝息を立てていた。

 

「そっか……来てくれたのはエルシドと、シジフォスか

「ああ……俺たちの調査が間に合っていれば、こんな目に遭わせることはなかった」

「ンなこと言うなよ 二人が助けてくれたんじゃねーか!!

 

すまない、と頭を下げた同胞の前で、カルディアは慌てて右手を振った。二人が気に病むようなことではない。むしろ礼を言うべきはこちらの方だというのに。

相変わらず厳しい表情を貼り付けたまま、エルシドはあの森に棲む生物について話してくれた。

 

「あそこからは冥闘士や邪神の悪意は感じない。だが森そのものが異形が繁殖のために作り上げた、強い小宇宙を有すること者を捉えるための仕掛けだったということだ」

「仕掛け……

「ああ、行方不明者について調べていくうちにわかった。いなくなった者たちはいずれも近隣の村で疎んじられていたり爪弾きになっていたりした者だった……だからこそ発見が遅れ森がここまで育ってしまったのだが……」

 

小さく溜息を吐いたエルシドの、白いかんばせに疲れが滲んでいる。一旦そこで言葉を切って、彼は右手で額を押さえた。はっきりと隈ができた顔は、この厳格で雄々しい同胞をどこか弱々しくさえ見せるのだった。

 

「彼らが孤独な日々を送っていたのは、その身に宿る力故だったというわけだ。小宇宙に目覚めた者たちばかりが次々と消え、誰に顧みられることもなく化け物のための養分になって死んでいった」

「エルシド……」

 

滲む無念が隠し切れていない。カルディアもデジェルもこの山羊座の黄金聖闘士が聖域に来るまでの経緯など何も知らないが、もしかしたら彼は犠牲者たちに己の境遇を重ねているのかもしれなかった。

細い溜め息。この先輩が感傷的になっていたのはここまでだった。緩く頭を振った後、エルシドはいつもの彼だった。

安堵して問いを投げかけたカルディアに、常と変わらぬ声音で返す。

 

「それで、シジフォスは

「破壊した核を持って先に帰還した。聖域での調査対象になると聞いている」

「そうか……」

「俺たちも明日にはここを引き払う。とにかく今日はゆっくり休め。……俺は、その……隣にいるから、何かあったら呼べ」

 

逡巡の後、似合わぬ手つきでカルディアの髪を一つ撫でて、エルシドは部屋を後にした。

 

辛うじて平静を保っていられたのはそこまでだった。

 

「あッ、ひぃ……んくううぅっ……!!

 

扉が音を立てて閉まった瞬間、カルディアは再び寝台に臥して身悶えた。

はしたない声が聞こえたかもしれない。けれどもはやそれに構っている余裕などどこにもなかった。

行儀悪く膝を立てて誤魔化していたものの、昂ぶってしまったものは一度や二度吐き出した程度では到底収まりそうにない。

 

「んッ、クソっ……い……くぅ……

 

軽く握り込んで刺激しただけで、掌を熱い飛沫が汚す。案の定身の内に渦巻く劣情は消え去ることなくカルディアを苛み続けていて、この程度の自慰だけで楽になれるとは思わなかった。

 

「あ……んっ、くひぃ ほ……しい、」

 

欲しい。勝手に唇からまろび出た言葉にカルディアは息を呑んだ。

窄まりがきゅうきゅうとひくついて止まらない。後孔は質量のある存在に蹂躙されることを熱く乞うて緩んでいた。

これ以上はどうあっても耐えられそうもない。

 

「あ……あ、デジェ……ル……デジェルぅ……

 

横目で見た白皙は涙の痕が痛々しい。それを友として悲しく、口惜しく思っているはずなのに、カルディアの身体はぞくぞくと疼く。

慣れた焼け付くような痛みこそないけれど、心臓が跳ね回って苦しくて堪らない。

常のあの苦悶同様、これを静められるのは一人しかいなかった。

 

「デジェル……!!

 

デジェルが。この親友が欲しくて堪らない。

ほとんど転げ落ちるように寝台を出て、眠る彼にのしかかる。

欲しい。占められたい。めちゃくちゃに揺すぶられたい、何も考えなくていいくらい激しく。

着せられていた夜着をもどかしげに脱ぎ飛ばして。

ありったけの欲望と情愛とを込めて、カルディアは眠るデジェルに口付けた。

 

初出:2016/06/13(Privatter)