ガチガチに固まった身体からはなかなか強張りが抜けていかない。不感症とまではいかないけれど緊張のあまり感度が極端に落ちているのは事実のようで、シュラもそんな自分を自覚しているから身の置き場がない。
「その……アフロディーテ……すまない、」
男の身であったときにも、誰かと身体を重ねたことは数えるほどしかない。当然受け入れる行為など初めてで。
献身的な愛撫でも少しばかり濡れただけの秘唇は、到底雄を迎え入れるには至らない。
だからこれは仕方がないのだ。シュラは酷く嫌がるだろうが、他に手段がないのだから。
寝室に飾ってある、毒のない薔薇を手に取る。アフロディーテがほんの少々小宇宙をこめただけで棘を落とされた蔦や茎が生き物のように動き出して、シュラの細い腕をヘッドボードに固定する。
ぽかんと瞬いた顔にキスを落として。
「ひィ、うぁぁっ!?」
そのまま唇は閉じた割れ目へ。まさかそんなところに口づけを捧げられるなど思いも寄らず、シュラは素っ頓狂な声を上げて仰け反った。
快楽というよりは驚愕と身を焼く羞恥。予め抵抗する術を奪われているから何もできない。
赤く美しい魅惑の唇に陰核をそっと吸い上げられて、腰が勝手にくねっては跳ねる。刺激から逃れようとする動きは容易く片腕でねじ伏せられて、唾液をまぶした舌が小さな尖りをやんわりと撫でた。
「ま……って、アフロディーテっ、やぁ……め、」
驚きは心理的な枷を打ち壊し、シュラの身体に先ほどまでの頑なさはない。小指の先ほどの場所に神経を集中させ、女を雌に作り変えるのに特化したその器官は、確かに目も眩む快楽をシュラに齎す。
それだけでも十分なはずなのに、アフロディーテの舌は止まらない。下から上に撫で上げる動きの度、貞淑さを失った場所が感度を増していく。いよいよ剝き身になってしまったクリトリスが早鐘の鼓動の度に疼いて、苦しくて、シュラははふはふ息を吐いた。
「……シュラ、」
「いやッ、やめ……しゃべるなぁっ……あ、ンっあぁああっ!」
ぴょこんと飛び出した鮮やかな赤の場所はいやらしくしこって膨れていて、商売女が呆れて鼻で笑うほど。そこに柔く歯を立てられると、頭が真っ白になって何も考えられなくなる。
「は、っはぁ……ひ……?」
一度あっさりと極みに堕とされて、シュラは困惑に視線を彷徨わせる。先ほどまでの取りつく島のない素っ気なさはどこへやら。恥ずかしい雫を滴らせた膣口は、陵辱者を待ち侘びて蠢いていた。
とは言えまだ、雄を呑むには足りないだろう。だから次にアフロディーテは蜜に濡れたその場所に唇を滑らせた。
呆然としていたシュラに正気が突き返されたけれど、一瞬だけ遅いーー尤も間に合ったところで虚しい哀願程度しかシュラにはできないのだけれど。
「あ、やぁッ、あぁあ……!!」
ぴちゃ……と。まるで猫がミルクを舐めるような水音。心身を打ちのめした衝撃にシュラは絶叫したつもりだったけれど、実際には弱く甘い啼き声が溢れただけだった。
尖らされた舌が媚肉を突つく。愛液を小さく啜られたかと思えば、反対に唾液を塗り込められる。
「よせッ、え……あ、ンんんぅ、んくぅッ……ふぁ、え……?」
意味がないと知りながら何度も両腕を強く引いて傷つける。膝頭を擦り合わせようとして、アフロディーテに開かれる。懇願の言葉を投げかけようとしたその時になってやっとその責めから解放されてシュラは睫毛の涙を払った。
終わったのか、と。そんなことあり得るはずがないのに浅はかにも安堵してしまって、見た目よりずっと硬く節高い指が突き立てられたのはそのときだった。
「んぎゅ、う!? ひィああぁっ!」
陰道の中にある小さな膨らみを押し上げる。存在くらいは或いは……と思ったものの、悲しいかな碌に経験のないシュラは快感の源泉には思い至らないようだった。
「やぁんッ!?」
指先を揃えて突き上げる。
「っは、ひあぁ!」
そのままぐりぐりと肉襞に押し込む。
「あぁああ! っあぁ、やあぁ……」
指を何度も鉤状に折り曲げ、そこを引っ掻く。
「ひ、いぎッ!? やら、っあ、あ……」
人差し指と中指でぽってり膨れた場所を抓り上げる。
幾度となく絶頂に堕とされて、掠れた声が弱く震える。女の身体のどこかにもどかしい快感を溜め込んでしまい吐き出せなくて、シュラはみっともなく身をくねらせた。
「やぁ、あん、く……るし、いッ!?」
再び陰核を唇が挟む。火照って蕩けた隘路を指に、そして敏感な尖りを舌と唇に責められて、シュラの身体が意志の制御下を完全に離れる。
「やめっ……やめて、くれッ……ひゃ、あぅ……!」
下腹を襲った甘くて重い疼きに、慌てて制止の言葉を吐いて。
「もれ……る……っ! も……っあ、ン、もれるっ、から……!!」
「ふふ、シュラが考えているようなことにはならない……かな……?」
小用を堪えることでより深い快感を得られるのは事実だけれど、シュラなどは粗相の心配のあまり気もそぞろになってしまうタイプだろう。だから行為の前に促して用を足させておいたのをすっかり忘れている。
そもそも別に漏らしたところで、アフロディーテは構やしない。だからどんどん切羽詰まっていく哀願と嬌声、シュラの痙攣さえも気にも留めずに責めの手を早めていく。
花芯の根元に歯を立てながら、指を最奥まで突き込んだ、そのときだった。
「あ、ッあぁ……ひぃあぁああぁっ!」
ぷしゃあぁ、と派手な水音がはしたない喘ぎと共に響く。放出の間もアフロディーテの愛撫は止まらなくて、そのせいでますます激しく潮を吹き出させられて、シュラはいよいよ半狂乱になってかぶりを振った。
「うそ……こんな、っひ、くぅ……! こん、なぁ……!」
確かにそれは、尿とは違う何かのようだった。だがそれが何の慰めになるだろう。
八十八星座の頂点、どころか世界中を探したって二人といないであろう美貌の持ち主の顔を、めちゃくちゃに濡らして汚すなんて。
絹の如き金糸と滑らかな肌を軽く払っただけで、アフロディーテは平然としている。むしろ身も世もなく泣きじゃくっているのはシュラだけで、そんな事実さえと矜持を粉々にしていて辛いのに、如何あっても涙は止まってはくれなかった。
「……シュラ」
「いやッ、やぁ……もう、いやだっ……!」
いつの間にか身体をずらした麗人が、泣き顔をまっすぐ見下ろしている。せめて顔を覆いたいのに拘束された腕ではそんな簡単なこともできなくて、せめてもの抵抗で顔を逸らす。苦笑したアフロディーテが気分を悪くした様子はなかった。
「まだ終えられないだろう?」
「や、らぁッ……! はい、って、」
ついに入り込んできた雄は、指とは比べものにならない質量と熱を持っている。肉の鞘は十分すぎるほどに蕩け切っているから、慣らすための時間など一切必要ではなかった。
そのまま激しい抽送が開始されて身体が歓喜に屈服させられる。その肉の悦びに抗っていることはもはや不可能で、シュラは訳の分からぬままに口走っていた。
「あーっ、あ、ひぃあ……い、いいッ! きも……ち、いいっ……!」
痩身は一突きごとに達して、昂りを食い締めて懇ろに愛撫する。この快感をもう少し堪能していたい気もするけれど、アフロディーテだって耐えていたのだ。長くは堪えられそうにない。
「ひ、あ……ーー!!」
「ッ、く……!」
「あっ、あぁ、ン……あつ、い……!」
底知れぬ果てに放り上げられて、常の面影ない陶酔の笑みをシュラが浮かべる。もっと、と乞うように腰を押し付けられて、そのままアフロディーテは腰を打ち付ける動きを再開した。