ラムネ


「い、やだっ……ぎん、ときぃ……!」

「“いやだ”ねぇ……」

「ひぅっ!?」


 後ろから羽交い絞めにされ、愛撫もそこそこに座ったまま貫かれる。抵抗しようともがいていた手は下帯でぎっちり縛められてしまっているから、桂にできることと言ったら、力の入らない足をばたつかせて暴れることぐらいだった。何の役にも立っていない児戯のような抵抗を銀時が鼻で笑う。


 そのまま両膝を掬い上げられて。ますます深いところまで呑み込まされることになってしまった剛直がなお質量を増して桂は目を見開いて叫んだ。散々に暴かれ尽くしたと諦念すら抱いていた身体には、いまだ当人すら知らぬ勘所があったらしい。奥を張り詰めたものに捏ね繰られ、走る快感の激しさに桂は怯えた。


「ぎんときっ、いぁっ、あ……やだっ……!」

「また“いやだ”かよ」


 頭を振るたび、濡れ羽の黒が銀時の頬を叩く。珍しく高く結われている桂の髪は、ところどころ解れてぐしゃぐしゃになっている。


 その揺れる尾を軽く引いて、銀時は桂に囁きかけた。


「なぁ、ヅラ。お前何が“いや”なんだ……?」

「っえ……? あ、ひぁっ、」


 何を言わせようとしているのか。欲情を孕んだ熱い声が耳元に吹き込まれて、桂は反射的に身を竦ませた。そんなこと、言いたくない。更に強く首を振って唇を噛み締めても、銀時は執拗に言葉を求めてくる。無防備な首筋に濡れた舌を這わされ、新たに見つけられてしまった弱いところをゆっくりと小突き回されてはたまらない。


 分の悪い勝負はすぐに終わり、快楽に喘がされながらも、桂は自らはしたない言葉を紡いでいった。


「か、かんじ……す、ぎぃ、あっ……からぁっ……!」

「“感じすぎる”? どーしてヅラくんは感じすぎるとダメなんだよ?」

「い、イっちゃうからっ!! もう、もっ……イくっ……あっ、え……?」


 赤く火照った頬を、それよりもなお熱い涙が撫で下ろしていく。前で勃ちあがったものに触れられることもないままに上り詰めようとした桂は、いきなり止まった責めの手に酷く困惑して瞬いた。あとほんの数回、奥を小突き回してもらえたら楽になれるのに。解放を求める身体は理性では御しがたく、すげーうねってる、と銀時が吐息だけで笑った。


 不意に、髪を纏めていた結い紐が解かれる。


「……ぎんとき?」


 不安と疼きに声が震えている。無理やり首を捻って後ろを振り向いた桂に、銀時は笑ってみせた。


「ひッ、あ!?」

「感じすぎて、イっちまうのがダメなんだろ。だったらこうして塞き止めといてやるから」

「いや、いやだっ! ぎんとき、はずせぇっ!!」

「あれもいやこれもいや、ヅラくんは我侭だなー」

「いっ!? ああぁァっー!」


 それを咎めるように律動が再開されて、いよいよ桂は恐慌状態に陥って身悶えた。しこりを擦り上げながら、奥まで一息に貫かれる。ほんの数回で達したはずなのに、その証を吐き出すことができない。


 どうにか細い紐を解こうとしても、拘束された、快楽に戦慄く手ではそれすらも不可能だった。隘路を辛うじて抜けた僅かな精液と先走りに濡れた場所を、無為に手がさ迷ってますます追い詰めていく。自分で自分の首を絞めていると知りつつももう手は止まらなかった。


「やだ、あッ、いやだぁっ! ぎ、ん……ときぃ!!」

「……ッ!」

「うああぁ……!」


 俺はヅラくんと違って感じるのもイくのも嫌じゃないから。そう言った銀時はさっさと一人で欲を吐き出してしまって、残された桂はすすり泣くしかない。射精を終えたものがずるりと抜けていくのだって気持ちがよくて仕方がないのに、達することができないなんて。


 もう恥も何もなく、桂は銀時に哀願した。


「ぎんときっ、頼むから……」

「頼むから、何?」

「イかせて、ください……!」

「俺はもう一発出しちまったからなぁ……そんなに若くねェし、今日はもう勃たねェよ」


 嘘を吐け! そう散々に罵倒したいのをぐっと飲み込む。抜かずに何回も何回も、こちらが泣こうが喚こうが失神しようがヤリ続けたのは先月の終わりのことで、あまりに白々しい発言に怒りさえ沸いてくる。


 それでも今は、目の前の男の慈悲を乞うしかないのだ。よろよろとにじり寄って萎えたものを唇で愛撫しようとすれば、銀時の掌に阻まれる。その手が代わりに掴み上げたのは、文机の上に置いてあったラムネの瓶だった。


 飲みさしののそれの中には、半分ほど中身が残っている。


「やッ、よせっ……!」


 いくらなんでもそれは、と暴れて逃れようとしても無駄だった。あっさりと捕らえられた身体はうつ伏せにされ、尻だけを高く上げた姿勢を取らされる。


 屈辱に歯噛みする間もなく、瓶の口が入り込んで来た。


「ヒッ、――――!?」


 少し気の抜けた、とはいえ弱い粘膜にとってはあまりに刺激の強い液体に責められて、桂は髪を振り乱して仰け反った。何を叫んでいるのか、そもそも自分が何か言葉を口にできたのかすらわからない。痛みと快感にびくつく白い尻を、暴れるな、と銀時が軽く叩いた。透明な瓶を通じて中の様子まで検分されて、いよいよ感情的な涙が止まらなくなる。


「ぎんっ、いやっ……ゆるしてっ……!」

「で? どーしてほしい?」

「ひもっ、ほどいて……」


 射精したい、精液が出したい、なんて。あまりに惨めなことを言わされていても、桂にはどこか穢しきれない美しさがあった。前立腺を抉るように瓶の口を抜き差ししながら、銀時は続きを促した。


「それから?」

「いっぱい、突いて……」

「へー、これで?」

「ひぁぁッ! いや、やだぁっ……ぎんとき、ぎんときがいいっ!」


 姿勢は徐々に崩れ、ぐしょ濡れの先端を畳にいやらしく擦り付けて。強請るように尻をもじつかせながら叫ぶ桂を見て、銀時は薄く笑う。


 瓶を引き抜きざまに、自身を突き立てる。勃起に食い込む紐を解きながら抽挿を開始すれば、まだ明るい夕下がりの室内にあられもない声が響いた。


初出:2015/05/04