「ひゃっ……」
「何、冷たかった?」
鼻で笑ってそう聞けば、濡れた琥珀が見つめ返す。“食い物を無駄にするな”だとか“くだらんプレイが楽しみたいなら吉原にでも行け”だとか、可愛らしい小言が耳を擽ってこそばゆい。なおも小うるさく話し続けようとした桂の唇を、銀時はそっと己の唇で塞いだ。
「んっ! うぅ……ん、ふ……」
鼻に抜ける甘ったるい声はどんな甘味よりも――たった今白い痩身を彩っている苺を蕩かしたシロップなんかよりもずっと――甘美でたまらない。口付けの合間、鮮やかな紅をじれったく意地悪く塗り広げていけば、銀時に手懐けられた身体がびくびく震えた。
「ひ、あぁッ! やぁっ、め、」
常ならば快いとろみで舌を楽しませてくれるものを、敏感な場所で受けとめる苦痛。ささやかな、けれどすでにぷっくりと膨れた胸の頂を強く捻られて、過ぎた快楽に仰け反った桂は口枷を振りほどいた。途端、矜持を打ち据える嬌声がとても堪え切れなくて、慌てて銀時に抗おうとする。
「無駄になんかしねぇよ」
「んッ! いやっ、あ……よさんか、き、さま……っあ!」
桂も、桂の身体を彩るものも、何もかも。そう囁いた低音に反駁する余裕はなかった。はしたなくしこった乳首を、乳輪ごと吸い上げられてしゃぶられる。反対側には強く爪を立てられては、児戯のような抵抗が長くもつ筈もなく。咄嗟に抱き寄せられた枕にかみ殺せなかった悲鳴が吸われていくのを聞いて、銀時は薄っすらと笑った。
空いた片手を上体に這わせ、ゆるやかに下へ滑らせていく。殊ゆっくりとわき腹を辿り、臍にも手を伸ばし浅く擽る。その一つひとつに震え、押さえ切れない喘ぎを枕に聞かせている桂は、もちろん銀時の意図に気付いているだろう。
快楽の中心に迫る不埒な手を止めたい。さりとて両胸の敏感な場所を謂わば質に取られて、抗うこともままならない。
「んッ……んむぅっ……ひぁッ!」
今でさえ聞くに堪えない声を隠せないのに、そこに触れられてしまったら……でも、もう逃れられない――。
その懊悩が銀時には楽しくてたまらない。
「ヅラ。顔あげろ」
「え……?」
全ての責めの手を止めて、桂を呼んで。いつ襲い来るかわからない快楽に身構えながらも、恐る恐る枕から顔を離すさまを見る。潤んだ瞳がはっきりこちらを見たのを確認して、銀時はおもむろに視線を落とした。
紅を纏った裸体の中で一箇所だけ、零れ続ける色のない雫で濡れた屹立。羞恥のあまり桂が身を起こそうとする直前にそこにも甘い苺のシロップを垂らした。淫靡に彩られたその場所を、そのまま直ぐに咥え込む。
「っあ、ひゃああぁッ!!」
敏感な場所を覆うものを引き下ろし、無理やり舌先をねじ入れるようにして愛撫する。桂はいつまでたっても口淫が下手だし、行きずりの女と寝たときにさせたことはない――どことなく他人不信の気がある銀時にとって、人体で一番硬い武器を有する場所に己の急所を捻じ込むなんて絶対にごめんだった――から、それがどれほどの激感を齎すのか実のところよくわからない。だがこうしてやると、桂はいつも羞恥を忘れたかのごとく啼いた。
「いやぁっ、やぁ、んッ! ああ、あっ……やあぁあっ!」
尿道口を軽くつついて、裏筋にもゆっくり舌を這わす。上顎に押し当てるようにしてずっぽりと飲み込まれるのも桂は好きだと銀時は思っている。散々苛め倒されて敏感になった亀頭が柔らかい部分に行き当たったとき、びくんと太ももが震え快感の大きさを伝えてくれる。張り詰めた双球を揺すって軽くからかって、秘所との間の隘路を強く指で押し込んだ。
「ひぁッ!? やっ、いやだっ……あぁぁあぁっ!!」
喉の奥に叩き付けられると反射的に嘔吐いてしまうときがあるから、少し頭を引いて、口内でしっかりと受け止めてそれから唇を離す。
「う、あ……あぁ、」
自失している桂の頭を持ち上げて、吐き出した精を口移しで飲ませていく。己の放ったものの、噎せ返る雄の臭いを厭ってむずかるのを銀時は力で押さえ込んだ。この行為だけを感じていて欲しいから、両の手は桂を支えているだけ。
ようやく全てを飲み下した桂を解放すれば、いつものようにはっきりと顔を顰めていて。
「なんだよ、今日は飲みやすかっただろ。苺シロップ入ってたし」
「飲み合わせ最悪だ馬鹿者! それに……なんだ、」
苺を食べるたび、思い出してしまうではないか。
蚊の啼くような声を聞いて、自身が激しく昂ぶるのを銀時は感じた。
初出:2014/01/08