捕縛


※さっちゃんが当て馬っぽいかもしれない。


 

 

 

 

「……つくづく、悪趣味だな」


 呟いた一言には、様々な意味が込められていた。同性の人間をこんな風にぎちぎちに縛り上げて嘗め回すように見るという行為への困惑。あんなぐうたらなダメ男に心底惚れ込んでいる目の前の彼女への疑問。そして、こんな目に遭わされてなお、勝手に悦んでしまう己の身体への嫌悪。


「でも桂さん、ちゃんと感じてるんじゃない」

「っう……」


 実際彼女の手腕は巧みだった。いくらもがいても決して緩まぬどころか、却ってきつく締まって身動きを妨げる麻縄は、それでいて無粋なまでの痛みを齎したりはしない。小ぶりな胸をくびりあげたそれは、そのまま足の間へと通されていた。


 梁から吊るされたまま、どれだけの時間無為に抵抗したのだろう。その分だけ毛羽でしごき上げられた陰核はひりひりと痛いはずなのに。なぜだか膣口はじっとりと潤みそこを埋めるものを求め始めていた。


 爪先立ちの身体が震える。みっともなくたたらを踏んで恥ずかしい舞を披露しながらも、桂は気丈に目の前に立つ猿飛あやめを見上げた。


「何、を……吸わせ、」

「あぁ、気付いちゃったかしら?」


 流石ね、無色無臭なんだけど。そう呟いた彼女がどこからか持って来たのは、何の変哲もない香炉だった。桂は目を凝らしてそれを覗き込もうとしたけれど、何が焚かれているのかはわからなかった。手近な文机の上にそれを置いたあやめが、再び拘束された全身を矯めつ眇めつ眺める。


「私たちくノ一は慣らされてるから平気だけど……」

「ッひ!? や、やめっ、」

「こうなっちゃうと堅物クソ真面目キャラも形無しね」

「あ、あっ! いやっ、だぁ……」


 悪意のある言葉ではなかった。けれど太ももまで垂れた愛液を辿られた挙句、男を待っている膣口を浅く掻き乱されてのその感想は、桂の矜持を粉々に砕くには十分だった。腰を振って逃れようとしても、意地悪く快楽を練りこんでくる指はどこまでも追いかけてくる。中を苛めつける右手はそのままに、麻縄に擦りつけるように淫芽を摘まれて、桂は軽く一回目の絶頂を迎えさせられた。


「きゃうッ!? んう、ううぅっ……っあ、」


 とぷ、と更に蜜を吐き出した場所が引き絞られる。柳眉を切なく寄せた桂がそれでいてうっとりと淫蕩な笑みを浮かべるのを、あやめは真剣な眼差しで見つめていた。


 荒い息を吐く桂のことなど気にも留めずに、そのまま胸に手を這わす。


「おっぱいは私のほうがあるのに……」

「っちょ、っと……よせっ、まだ……ひあっ、」

「乳首の色は薄めかしら、絶対私のほうが綺麗でかわいいピンク色なのに……特別感度が良くて責め甲斐があるとか?」

「んぁッ! いやっ、手……はな、せっ……!」


 縊り上げられた小さな胸が、ささやかに揺れて愛撫を待っていた。ふくりと膨れた乳輪を丁寧になぞられるだけで、痩身を快感が駆け抜ける。指の腹で擦り潰すように、或いは先端で抓り上げるように。まるで搾乳でもするように引き絞りながら強く引かれると、拒絶の声に哀願が混じった。


「確かに敏感さでは敵いそうにないわ……でもそれは仕方ないの、だって私はくノ一だから! 敵の手に落ちたときのことを考えるとリスクが大きすぎるから!!」

「っは、あ……はぁ、」


 ようやく責めの手が止んで、桂が安堵できたのは一瞬だった。腕を組んで真剣に考えはじめたあやめは最早眼前の桂そっちのけで滔々と一人語っている。


「でもその分、私たちくノ一にも負けないものがあるの……それは性技! 捕らえられた先で、或いは自ら閨に潜り込んで、私たちは男を悦ばせオトす……。そう! くノ一の手練手管でならあらゆる男を満足させられる筈なの、銀さん、アナタのことだって!!」

「うるせェよメスブタ」

「銀さあぁ、ッん!?」


 突然聞こえた声に大喜びで飛び込んで行こうとして、その勢いのままに放り投げられてあやめは障子に突っ込んだ。呆れ顔の闖入者が自分に目を向けたのにも、桂は最早気付かなかった。


「ンっ、んうぅっ……っあ、」


 もどかしい。浅いところと淫芽だけで軽く極めさせられた身体は、より深い絶頂を求めじくじくと疼いていた。苦しい、欲しい、奥までいっぱいに満たしてほしい。はしたなく尻をもじつかせて、それが叶わぬなりに花芽での快楽を貪っていた桂は、つい無意識に男の名を呼んでいた。


「ぎ、ん……ときぃっ……!」

「はーい?」

「……え? なん、で……いやっ、見るなッ! 見ないでくれっ!」


 存外近くから聞こえた声に、呆けた顔を晒して。己を見返す銀時の目に気付いたとき、官能に蕩けた身体に冷や水を浴びせられて桂は蒼ざめた。逃れられないとわかっていながら身を捩っては地団駄を踏んで、ますます自分を追い詰める。


「見るなって、何を? 素っ裸に剥かれて吊るされてるヅラくんを? それともお漏らししたみてーに濡れてる畳を? それともさっきまでしてたヅラくんのオナニーショーを?」

「う、るさい、うるさいっ……!」


 いよいよ涙を零して頭を振るだけになった桂に、銀時はそっと歩み寄った。頬の雫を拭う手つきの優しさに、あやめは大いに嫉妬させられた。その視線に気付いたのか、銀時がおざなりに手を振った。


「ワリーけど自分で帰ってくんねぇ? 今こっちで手一杯なんで」


 お前だからギリ許せるけどね、これが男だったら血祭りですよ。そうぼやいた銀時がぐずって泣く桂に唇を落とすのを見て、あやめはおもむろに立ち上がった。別にここに残って焦らしプレイを楽しんだっていいけれど、二人のセックスのスパイスになるのはゴメンだった。


「銀さん、私は諦めないわよ……いつかあなたのオンリーワンメスブタになるまで!!」

「ほんと、ポジティブなやつだよ……」


 背後の気配が消えたのを確認して、一つ溜息。それから改めて目の前の相手を眺め回す。涙こそ止まったものの、甘えつくような雰囲気も、銀時を求める言葉もない。それなのに、さっさと解け、なんて強がりにそそられるのだから自分も大概なのだけれど。


「やっぱりさあ、簡単に縛り上げられて身を投げ出されても萎えちまうわけ」

「ちょっと……待てっ! き、さまっ、あ……どこを、ッあ……!」


 手に入れがたいからこそ、この手に抱くときに滾るのだ。


 理性と本能の狭間で、こちらを拒もうとする桂を捻じ伏せつつ。銀時はうっそりと笑った。


初出:2015/04/24

(あんまりタイトルに沿ってなくてすみません……)