怪しげな薬を干したときから。
いや、もっと前、男たちの誘いに乗ったときから、覚悟などできていた。
万が一にも抵抗などされては命がないと、後ろ手に固く縛められて。
“取引”が成立している以上抵う気などあるはずがない。
自分のような若造一人から身を守る自信すら持たぬ男たちの無様を桂は内心嘲笑った。
「んっ……う、」
熱い。
干した液体がぐるりと痩身を巡り、悍ましい熱で桂を嬲る。
横たえられた布団の上、さりげなく身を捩らせて勃起を庇う。
そんなささやかな抵抗を見咎めるように、男の一人が膝を割った。
女物の襦袢の下、すっかり勃ちあがってしまった屹立が男たちの視線に晒される。
惜しみなく投げかけられる下卑た賞賛の言葉に答える桂の声は侮蔑に満ちていたけれど。
「くだらん……眺め回して満足か? 欠伸が出そうだ」
冷えた言葉も、熱い吐息まじりでは説得力などあるはずもなく。
「では桂さん……もう一つだけ“条件”を足しましょう」
貴方がもっと楽しめるように。
細い縒り紐を手にした男が唇を歪めて笑った。
ーー何、童がよくやる遊びですよ……雪の降る冬の日に“寒い”と言ってはいけないと取り決めるような、ね……。
「ひうぅっ、あ! やぁっ……!」
禁じられたのは勿論逐情を乞う言葉で、締め上げられて解放の叶わなくなった場所をちびりちびりと漏れる先走りで濡らしながら、桂は細く息を吐いた。
眦を裂いて下衆どもを睨めば、共に視界に入り込むのはあまりにあられもない己の姿。
かと言って目を閉じればより鋭敏になった身体には刺激が強すぎた。
「ま、あっ……や、やめ、ろ、」
「ああ、珠のような肌だ……傷があるのが実に惜しい」
「何を言う。これがまた良いのではありませんか。遊び女などと一緒にするものではない」
「ひィぁっ! やっ、やめぇっ……あぁあああーッ!!」
脇をさわさわと撫で上げる。
汗ばむ首筋をいたずらに擽る。
乳首を不意打ちで摘み上げる。
戦慄く足の指先を舐めしゃぶる。
哀れにも腫れ上がる陰茎を好き放題扱き、先端を刮げるように舌を這わす。
ひくつく後孔をこねくり回し、肉鞘の内秘められたの勘所までも執拗に揉み解す。
「おや、泣くほどに悦んでもらえるなんて」
「や、もう……いや、ら……」
ゆるして、たすけて、と。
無意識の言葉は随分と舌ったらずで。
感度を磨かれた身体へのあまりの仕打ちに、気付いたときには涙が溢れていた。
論って笑われて、それに屈辱を覚える余裕もない。
濡れた白皙を拭う男が菩薩の声で桂を地獄へ誘った。
「どうでしょう、桂さん? つまらぬ意地の張り合いなどやめはしませんか?」
「児戯でムキになるのも結構ですが、それでは身体がお辛いでしょう?」
薄気味悪い猫撫で声が肌を舐る。
先ほどまで気を確かにするために思い浮かべていたいくつもの顔に、今ではもう濃い霧がかかっているのだった。
「さ、桂さん?」
「あ、あぁ、あ……」
涙が止まらない。
白痴のように唾液を垂れ零しながら、桂はそれでも頭を振った。
さざ波のように広がる溜息は失望などではあり得ない。
心底楽しげに代替案を提示する声は酷く楽しげに上擦っているのだから。
「お強請りはしない、我慢もできない。それじゃあ桂さんーーーー」
「うぁ、あ……!」
眼前に晒されたものが何か、まともに考えることもできない。
泣き濡れた顔を晒しながら熱烈な口淫を続ける桂を、幾対もの昏く光る瞳が見下ろしていた。
初出:2015/12/26(Twitter)