白昼夢

玩具・尿道責め・拘束・絶頂失禁などの要素があります。

原作との若干の差あり。

 

 

SIDE:S

 

――ちょっと休憩しよう。

 そう最初に言い出したのは誰だったろう。

 何をやっても、土方から電池が取れない。

 何百回何千回何万回もの試行錯誤も虚しく終わり、流石に銀時も神楽も新八もうんざりしていた。

 万事屋のソファにぐったりと伸びたところで名案が浮かぶはずもなく。

 真っ先に立ち上がった神楽はがま口財布を手に飛び出して行った。

「四丁目のスイーツバイキング、行ってくるアル!」

 以前ケーキやチョコレートから和菓子、フルーツに至るまで食べつくして出禁になったところだろう。一応律儀に代金を支払うつもりなのが好ましいといえば好ましい。

 立ち上がった新八はまず和室に入り、ややあって戻ってきた。

「僕も、ちょっと……お江戸放送でお通ちゃんがラジオの収録してると思うんで……」

 どうにかして現場に潜り込んで、それこそ延々、永遠に眺めているつもりなのだろう。

 見咎めるものなどいないというのにいつぞやの気合入りまくりのスーツに着替えて行ってしまった。

 一人残された万事屋は広い。ここに居続けても気が滅入るばかりだ。

「俺はどうすっかな……」

 甘味食べまくりは神楽に、憧れのお姉さん観察は新八に先を越されてしまった。どうせパチンコ屋に行ったところで機械は動かない。

「……となればアレしかねーか」

 社長机の一番下、鍵のかかる引き出しからあれこれとおもしろいものを引っ張り出して、銀時もまた外に出る。

 こうなったら、せいぜい楽しむしかない。



●○1○●


「さて、」

 真選組の現場検証の真横でキャッチボールをするバカの顔を矯めつ眇めつ眺めながら、銀時は最早笑みを隠せなかった。

 日も高く上り高らかに晴れた空の下、これからしようとしていることを思うと――どうしようもなくムラムラする。

 貝の口をあっさり解いて、地面に落ちた帯もそのままに今度は襦袢に手をかけた。

 前を開いて下帯を晒せば相当あられもない姿になる。時が止まっていなければ違う意味で通報されそうだ。

 その、下帯すらも解いてしまう。あれほど動けと念じていた時が凍りついて動かないことに銀時は感謝していた。

 薄っすらと筋肉のついた痩身に手を這わす。

 何事も最初が肝心だけれど、やりすぎてしまってはおもしろくない。まだ貞淑な色をした乳首に、銀時は優しく舌を伸ばした。

「っん……」

 誰も見てはいない、気付きはしないのだとわかっていても気恥ずかしい。

 それを隠すように喉の奥で笑いながら、柔らかい乳輪を辿り先端を舌で小突き回す。反対を放っておくのもかわいそうだから、利き手の容赦のなさで、銀時は左側をぴんと弾いた。

「硬くはなんねェんだな」

 まぁ、時が止まっているのだから当たり前だけれど。いつもならこうして胸を責めただけで桂は鼻を鳴らして甘ったれた声を出すのだから、なんとなくつまらない気分になってしまう。

 だからと言って志半ばでやめるわけがない。薄い胸板から鳩尾、腹を辿り下生えへ。萎えたものに軽く息を吹きかけてから、まずは先端にキスをした。

 ずるりと咽頭まで呑んでからそこを震わせて愛撫すると桂はたいそう啼いて悦ぶのだけれど、そこまではまだしてやらない。

 尿道口を舌先でつついて苛めて、それから裏筋を舐め回す。あえて垂れ零している唾液を追う指は双珠をにちょにちょと揺さぶる。

 なんだか興が乗ってきて、そのまま後ろにまで指を伸ばしていた。

 当たり前だが、まだ固くつぼまっている。濡れた指で揉みこんでから、銀時は体勢を変えた。

「よっ、と……」

 恋人の足の間に身体を捻じ込んで、眼前の菊座に唇を寄せる。

「ヅラはこれキライだもんなぁ?」

 羞恥――そしておそらく快感――のあまり泣いて嫌がるのを押さえつけてやるのもまた楽しいのだけれど、それなりに骨が折れる。

 恥らう様が見られないのが心底惜しいが、五分後の反応を楽しみにしよう。

 入り口を舐め解すだけでは飽き足らず、開かれていない場所に舌を捻じ込んだ。辛うじて届きそうな勘所には触れないで、差し入れたものをゆるりと回してから抜いてしまう。

「こんなもんか」

 腰巻も襦袢も着流しも、元通りきちりと着付けて。

 傍目には淫行の欠片も見えなくなってから、銀時は時計の針を進めた。



●○2○●


「意外と頑張ってんじゃねーか」

 最初の感想がそれだった。閨では銀時が何をしても感じ入って啼いているような桂だが、流石に真っ昼間の往来で意味不明な快楽に襲われたとしてもああはならないらしい。

 正面に立ってまじまじと観察する。

 白皙には赤みが差して、顰められた柳眉が悩ましい。投げようとして振りかぶったボールを取り落としてしまったところで桂は固まっていた。

 脱がせやすい姿勢で助かるわ、なんて独り言ちて銀時はまたも着物を剥いでいく。また着させるのも面倒だから、今回も腕は抜かずにおいた。

 再び眼前に晒された身体ははっきりと欲情していた。

 慎ましさを捨てて存在を主張している乳首も、半分勃ち上がって先走りを垂らしているものも、銀時の雄を刺激して止まない。

「あー! なんで時間が止まってんだよ!!」

 悪戯の根幹を揺るがすことを毒づいて、天然パーマを掻き乱す。僅かに開いたその後孔は、こんなときでなければひくひくと銀時を誘っているだろうに。

 鬱憤を叩きつけるかのように、裸体に唇を寄せて歯を立てる。一度“そういう状態”に心身がなってしまうと、桂は痛いくらいの刺激にむしろ悦んだ。

 肩口、鎖骨、二の腕、項。もちろん存在を主張する胸の頂も、強く吸い上げて噛んでやる。反対側は乳輪にめり込むほどに思い切り押しては、時折親指と人差し指で捻り上げる。

 気の済むまで胸を苛めてから銀時は顔を上げた。このまま下へ……でもいいのだけれど、先ほどと同じでは芸がない。

 今回は半勃ちのそれには敢えて触れぬことにして銀時は立ち上がった。

 小脇に放置していた紙袋を手にとって、中を漁る。

「いきなりコレはでけぇだろ……」

 銀時の銀時より長大なアレの下から、ローターを一つとローションを取り出して薄く笑う。

 電源を入れても動かないけれどそんなのは予想済みだからかまわない。リモコンを桂の腿に括りつけて、鶉の卵のような玩具をつぷりとアヌスに呑み込ませた。

 粘液に塗れさせたものが、ゆっくり中に入っていく。それが前立腺を刺激するところで止まったことを確認し、銀時は桂に服を着せてやった。

 深呼吸を一つして、時計の針を五分進める。



●○3○●


 涙目でへたり込んだ桂のそばにエリザベスが駆け寄っていた。

 今更このペットの存在を思い出し銀時はうげっと声を上げた。通りを見れば名も知らぬ通行人が心配そうに桂に目を遣っている。

 ここでこれ以上時を進めて桂の身に何かあれば――自分のことを棚にあげて――不埒者を身包み剥いで生き埋めにしかねない。

「場所、変えっか」

 紙袋を懐に入れ、桂を抱え上げた銀時は近場の連れ込みに足を向けた。


 こんな時間からお楽しみの連中は少ないらしく、寂れた宿は随分と空いていた。いっとう奥の和室を選んで桂を転がす。

 しょぼい内鍵を掛け、ふと思いついてそこに木刀を振るった。これでもう鍵は開くまい。

 鏡に映る顔があんまりにも欲望に輝いているから、銀時は苦笑した。これからどうするか、すっかり算段はつけている。

 背を丸めてうずくまる桂から容赦なく着物を剥ぎ取る。姿勢が姿勢だから上手く脱がせないのだけれどそんなことは関係ない。どうせ直るのだから破けばいい。

 腹につく勃起は酷く辛そうだ。かわいそうだから出させてやるか、なんて仏門の人間に殴られそうな“仏心”を出して銀時はそれをぱくりと吞み込んだ。

 わざと歯の先を敏感な場所に当て、それから上顎で擦りながら軟口蓋へ。歯を立てずに咀嚼と嚥下のような動きを繰り返しながら張り詰めた肉の根元を舌で擽る。

 涙どころか鼻水まで垂らして善がるほど気に入りの愛撫だけれど、念には念を入れてやろう。優しさと言うよりは大いに意地の悪い気持ちでもって、銀時は紙袋をひっくり返した。

 転がり出たローターは五個。思っていたよりも数が多い。

「……ま、いいか」

 あるならあるだけ使っちまえば。ギャンブルの前にもよく嘯いている言葉を呟いても、もちろん聞きとがめる者はない。

 一緒に飛び出したサージカルテープでもって、全てのローターを固定する。

 重ったるい双球に一つ。裏筋に一つ。とば口にも一つ貼り付けて、あまった二つは乳首に。

 もう着せる服もないのだから、リモコンは最強にして床に放っておいた。

 次の桂はどんな痴態を見せてくれるのだろう。

 胸の高まりを受け慄く指で、時計の針を動かした。



●○4○●


「裸で外出てどうするつもりだったんだよオイ!」

 思いがけない光景に銀時は思わず吹き出した。

 一糸纏わぬ姿の桂が、開かない扉に縋りついて泣いていた。

 べしょべしょのぐちゃぐちゃに泣き濡れたかんばせは萎えるべきポイントなのかもしれないけれど、銀時を煽ることしかできない。

「ったく、こいつらも全部取っちまってよ……」

 放られた六つのローターを見て軽く溜息。せっかく気持ちよくしてやっているのに、外してしまってはダメではないか。

「勝手なことできねーようにしねぇとな」

 口数が増えている自覚はある。むしろ鼻歌まで歌いながら銀時は必要なものを揃えていった。

 愛用の木刀に自分の帯とベルト、懐から出した手ぬぐいとタオル二本。長くて太い凶悪なアレと、それと比するとあまりにも細く頼りないバイブ。

 赤く腫れぼったい目を隠すように手ぬぐいを巻きつけ、それから手首をベルトで縛める。ドアノブを両手で掴んでいるのでやりやすい。そのまま鏡台の脚に括りつけた。

 半端に開いていた足をもう閉じられないよう、両足首を木刀の端と端に結びつける。

「お次は、っと……」

 先に細いほうを選んだことに理由はない。ただ手近にあったそれを手にとって、満遍なくローションを塗していく。

 白濁を巻き散らかしているのだから達したことは明らかなのに、桂のそれはまだ萎えていなかった。

 むしろ再び頭を擡げ、更なる刺激を待っている。

 小さいなりに貪欲に開いた尿道口に、切っ先を宛がって。初めから震動は最大に設定してある。つぷ……とささやかな水音も、己の荒い息遣いさえも、銀時をどうしようもなく興奮させた。

 押しては引いて、たまにいやらしく捻って、少しずつ隘路を侵略していく。

 ここを苛めたことはない。未知の感覚に桂はどれほど怯え啼くことだろう。それを具に観察してやることができない鬱憤をぶつけるように、より奥へと責めの手を伸ばしていった。

 不意に先端が何かに触れた。ここか、と呟いた声が熱く掠れていることに気付き、銀時は額の汗を拭う。

 しばらくはそこを突いて甚振ることに専念して、その後一気に全て突き刺した。

 僅かに引き抜くための取っ掛かりを残しただけで、あとはすっかり尿道にバイブが収まった様を見て、嘆息が小さく漏れた。

 目の端にテープがついたままのローターが一つ見えたので、おまけに裏筋につけ直してやる。

 あとはもう、この極太凶悪バイブだけだ。

 責めてくれるものを失くし、寂しそうな孔にびっしりと生えた疣もおぞましい淫具を挿入する。全てを収めたところでぐるりと回して内壁を苛めて、繰り返し、遅く速く抜き差しして敏感な場所を抉ってみた。

 五分後のことを想像すると確かに楽しいのだけれど、反応がないのがやはりいただけない。

 腕が疲れてきたところで、思い出して最強まで一気につまみを捻った。

 逸る心を抑え軽く肩と首を回してから、努めて鷹揚に銀時は時を五分進めた。



●○5○●


「う、わ……」

 果たして目の前には、いかな春画もポルノもアダルトゲームも裸足で逃げ出すような光景が広がっていた。

 どちらかと言えば色が薄く細めの陰茎が赤黒く腫れて痛々しい。拘束された身体を懸命にくねらせて、解放を望んだのだろう細腰が虚しく空に突き上げられていた。

 美しい鳶色の目を覆う手ぬぐいは早くもぐっしょりと濡れて色を変えているし、きつく寄せられた柳眉も苦悶を雄弁に表現している。

 泣き喚くためか、狼藉者に慈悲と赦しを請うためか、それとも罵倒の言葉を並べ立てるためか。或いはただ単に必死で酸素を求めてかもしれない。だらしなく開けられた口から唾液を溢れさせ舌を垂れ零しているのも、なかなかそそるものがある。

 もう言葉も出てこなかった。

 足の拘束だけ解いて桂を犯していた無粋な玩具を放り捨て、そこにいきり立った雄を捻じ込む。

 技巧も何も知ったことかと、ただひたすらに腰を打ちつけた。

 こんなにも感じ入った様を見せているのに、今の銀時では反応一つ見られないのが無性に腹立たしい。

 あの艶やかな声が聞けないのにも理由をつけるように、銀時は桂に口付けていた。

 鼻に抜ける喘ぎを脳内補完しながら、口内を思うままに蹂躙する。

 手持ち無沙汰な右腕で肢体を撫で回しては愛撫を施す。

「っく……!」

 やがて覚えのある感覚に背筋を震わせた。自身がぐ、と大きさを増したのが分かる。

――銀時ぃっ、いっしょに……いっしょにイきたいっ……!

 桂がいつだってそう訴えるのを思い出して、銀時は尿道を蹂躙するものを引き抜いてやった。

 きっと、桂は“今”、悦楽に顔を歪ませながら放っただろう。

 そんな夢想と共に、銀時もまた桂の奥に吐き出した。

「あー……」

 満足と不満足がないまぜになった気持ちで、ごろりと畳みに転がる。

 いつもならば逐情の快感が余韻にすら変わらぬ桂に覆いかぶさって第二ラウンドといくのだけれど、今はそんな気分になれない。

 それでも桂の反応は見たいから、身を起こした銀時は時計に手を伸ばし針を進めた。



●○6○●


「……うん、そうだよな」

 そりゃあそうなるだろ、と気付けば言っていた。

 桂の腰周りと畳をびしょびしょに濡らす小水を見ても、特に焦りなどはない。

 どうせなかったことになるなら何でもやろうと思っていたのに、今となってはここまでやってもなかったことになるのが虚しかった。

 おまけに。

「何バカヅラ晒してんだコノヤロー」

 目隠しを取ってまじまじと見下ろせば、意識を飛ばしているのであろう桂が安堵しきった笑みを浮かべているのがまた気に入らない。

 お前犯されてんだよ? それもこんなわけわかんない状況でレイプされてんだよ? 何この適応力?

 これだけの無体を強いておきながら勝手に腹まで立てて、でもそれを桂にぶつける術もない。なんだかどっと疲れが出てきた。

「けぇるか」

 二十五分前の世界へ。

 針を戻せば散々な状態だった部屋はすっかり元通りになって、もちろん桂もどこにもいない。

 空き地は迂回して行こう。

 溜息を吐いた銀時は、止まった時間の中を歩き出した。


 

 

SIDE:K

 

 攘夷活動は身体が資本だ。

 もとより凝り性なところがある桂だが、最近は健康増進のための様々な活動に余念がない。

 いつぞやに坂本とプレイしたバスケも続けているし、剣道場を借りて若い党員に稽古をつけてやることもある。エリザベスとの散歩は日課で、その最中に真選組と遭遇してそのままランニングになることも多かった。

 そんな桂が今ハマッているのはキャッチボールだ。

 もともと小型爆弾の投擲に長けている桂が硬球一つ御せない訳がない。

 エリザベスと向き合い童心に返って白球と戯れていると、不思議と日ごろの悩みやストレスが消えてすっきりするのだ。

 だから今日も今日とて攘夷活動やアルバイトの合間を縫って、桂は空き地へと足を運ぶ。



○●1●○


「んっ……!?」

『桂さん?』

「いや、なんでもないエリザベス」

 この晴天の下、急に素裸になったような寒気に襲われて桂は身を震わせた。そんなことあるはずがない。視線を下ろせばいつもの着物に襦袢、羽織も着込んだままだ。

 軽く頭を振ってボールを投げ返したところで、再び怖気。今度のそれは冷気によるものではない。

 目に見えぬ、明確な意図を持った何かが這いずる感覚に、小さく息を呑む。

「うぁっ、く……!」

“何か”なんて曖昧なものじゃない。唾液をたっぷりと含ませた舌が乳首を舐めしゃぶり、無骨な指先が弾いている。

 襦袢の下、しこって存在を増していく場所が憎い。白昼の往来で高められていく快感を振り払うように、桂は声を張り上げた。

「いいぞ、エリザベス!」

 頷いたエリザベスが完璧な投球フォームで投げる。容易くグローブに収めた直後、そのボールを取り落としそうになった。

 おかしな声が出ないよう、右手の甲を唇に押し付ける。

「ん、むぅ……んッ!」

 胸への愛撫を終えた不埒な舌と指が、下腹にまで降りてきたのだ。視線を下ろしそこを睨み据えても見えてくるものはない。

 それなのに、兆しはじめたものは確かに人の口腔で愛されていて、腰が砕けて座り込みそうになる。

 おぞましい快感と、気遣わしげにこちらを見るエリザベスの視線から逃れるべく、桂は再びボールを投げた。

 指から硬球が離れる瞬間、双珠を揉まれ、揺すぶられる。

「ひァッ!?」

 コントロールできなかったボールが突拍子もないところに飛んでいくのを、エリザベスがぺちぺちと駆けて追いかけた。

 会陰を辿った指に窄まりを弄られ、快感に背が仰け反る。手元が狂ったすまん、と掛けた声も無様に震えていた。

 明らかに訝っているエリザベスは、だが何も言わなかった。幸い訳のわからない激感は去ったようだ。

 投げ返されたものを難なくグローブでキャッチする。

 大きく振りかぶって投げようとしたところで。

「んぁっ! あっ、やぁ……!」

 のたうつ舌に潜り込まれて、硬球を取り落としていた。



○●2●○


「いや、何でもないんだエリザベス! 本当にっ、大丈夫、だ……から……」

 嘘だ。地に転がるボールを拾いにいくこともままならないくらいに、桂の身体は昂ぶっていた。

 眼前には誰もいない。いないのに、痛いほどに肩口を、鎖骨を、二の腕を、項を噛まれ膝が笑う。

「だ、から……来る、なぁ……あっ! あっ、やあ、っひ、」

 ぴんと勃って感度を増した胸までも吸い上げられて歯を立てられ、いよいよ喘ぎを押し殺すことができなくなった。

 胸への愛撫が執拗に続けられ、身を庇うように抱いたところで意味もない。

 はしたないことになっている部分を隠すよう前傾の姿勢になって、羽織を噛み締めて桂は耐えた。

『桂さん!』

「っあ、エリ……ザベス……」

 結局駆け寄ってきたエリザベスに強く揺さぶられるまで、そのまま立ち尽くしていたらしい。

 気付けばあの刺激は収まっていて、疼く身体に熱が燻っているだけになっていた。

「す、すまん……今日は、調子が悪いのかも、しれん……」

 これ以上こんなところで醜態を晒すわけにもいくまい。とにかくここを離れねば。

 頷いたエリザベスとともに空き地を後にしようとしたところでそれは起こった。

「ひっ、ああぁぁっ!? ん、んむぅ、んううぅッ……!」

 意志とは関係なく勝手にひくついていた場所に、確かに何かが入り込んでくる。

 激しく震動するものが齎す快感に情けない声を上げてしまって、桂は慌てて口を塞いだ。

『桂さん! 桂さん!?』

 前立腺を滅茶苦茶に叩かれて勃起が隠せないどころか下帯から着物まで先走りで濡れている。

 羞恥と、それと同じだけの悦に吞み込まれそうになって、桂は固く目を瞑った。



○●3●○


「な、な……!?」

 どこだ、ここは!? 再び目を開けた途端飛び込んできたのは薄汚れた砂壁で、訳もわからず桂は辺りを見渡した。

 極端に小さい窓、荒れた畳、煎餅布団。そして引きちぎられた自分の着物。

 混乱しつつも、非常事態に慣れた身体は刀を引っつかんだ。立ち上がりざま体内で暴れるものを引き摺り出して放り捨てる。

 扉に掛けてドアノブを回したけれど――開かない。半端なところで引っ掛かって開錠できないのを無為に数回動かしてから、それを断ち切るべく桂は刀に手をかけた。

 その、瞬間。

「ひぃああッ! や、め……やめろっ! いやだっ、いや、あっ、」

 固く反り返っていたものをずるりと口内に収められる感覚に、すぐさま愛刀が手から滑り落ちる。口淫を続ける者を押し退けようとした手は当然のように空を掻いて、逃れられない快楽に桂は啼いて身悶えた。

「んひぃっ、それ……いやだ、いくっ、いっ、あ……ぎんときぃ……!」

 喉の奥で先端を苛めつけられ、そのまま舌で根元を舐め回される。逐情のとき唇から零れ落ちた哀願、紡いだ名前を耳で聞いて、桂は軽く瞬いた。

「ぎん、とき……?」

 そうだ、コレが奴の仕業だと考えれば腑に落ちる。慣らされた身体は確かに銀時の手の内を知っていた。

「銀時、貴様なんだろう!? ふざけた真似を……ここから出せ!!」

 屈辱と怒りに声を張り上げても答えるものはない。再び獲物を手に扉を斬り捨てようとしたところで、敏感な場所を襲った震動に、桂はドアノブに縋ってへたり込んだ。

「ひィッ! ぎ、んとき……貴様、あっ、い、いいかげんっ、に……!」

 いつから、こんなものが。最初からあっただろうか。あったかもしれないし、なかったかもしれない。

 激しく震えるローターは存外がっちりと固定されていて、みっともなく戦慄いている手で外すのは骨が折れた。

「あっあ、あ! いや、だぁ……また、また……!」

 訳のわからぬまま果てさせられるなんて。

 どうにか全ての玩具を剥ぎ取って、懲りずに動かぬドアノブを握り締めたまま、桂は固く目を閉じた。



○●4●○


 次の瞬間目を開けようとすれば、柔らかい布が瞼を優しく押さえつけていた。

「な……!?」

 それだけではない。それを外そうとする両手首は頭上で縛められている上に、足首まで棒か何かに括られて、開いたままを強制されている。

 これまで以上にいかな抵抗も許されない姿にされてしまって、流石の桂も不安に眉を顰めた。

 相手が銀時ならば、まだいい。もし、違うならば。

「何者だ……! 一体何が目的なんだ!」

 虚勢に答える声はない。それどころか人の気配すらしないのに、これまで同様突然それは始まった。

「ひぁッ!? い、やっ、そこは……! いや、だ、よせぇッ!!」

 細かく激しく震えるものを隘路の出口に宛がわれ、桂はいよいよ半狂乱になって暴れた。頭上の家具は軋んで嫌な音を立て、振り上げた両足は鋭く空を切っているけれど、そんなことはなんの助けにもならない。

「うぐ、っう……やめ、ろぉ……っあ、んぅうッ!」

 尿道を犯すものは、少しずつ少しずつ奥へと入り込んでいく。

 痛くない訳がない。得体の知れないものに陵辱される気味の悪さも、底知れぬ恐怖もある。

 それなのに勃起はみっともなく膨れ上がったまま萎えようともせず、呑まされた淫具にむしゃぶりつくのだ。

 いやだ、やめろ、なんて口ぶりだけは拒絶の体を辛うじて保っていたけれど、破れかぶれのそれがいつまでもつか、本人にさえ自信がない。

「うあぁッ!?」

 不意に隘路で激感が爆ぜて、恥も外聞もなく桂は悶絶させられた。後孔の“あそこ”を抉られたような快感に、全身が痺れておかしくなる。

「よ、よせッ……そこっ、それぇッ、だめ、」

 こちゅこちゅとそこを小突き回されるたび、気が狂いそうになる。涙はおろか唾液も、鼻水さえ垂れ流しながら桂は懸命に責めから逃げおおせようとした。

 手首の擦過傷が齎す痛みが、一瞬にも満たない間だけ正気をつき返してくれた。

 乱れに乱れた呼吸を少しでも整えるため、身体の力を抜いて酸素を取り込むべく深呼吸する。

 震動が勘所を貫いて尿道を犯しきったのはそのときだった。

「ひぎっ、やああぁァっ! ぬ、抜けっ! ひぁっ、んっ、う……!」

 聞くに堪えない自身の喘ぎに矜持を強かに打ち据えられて、どうにか唇を噛み締めた。

 勃起の先端からも快感が練りこまれてくるのを拒むように、尻を畳に押し付ける。

 腰を淫猥にくねらせている姿は卑猥なことこの上なかったけれど、幸か不幸かそれを指摘するギャラリーはここにいなかった。

 その、ひくつく窄まりにまで、何かが宛がわれた。

「やだっ、もう……いやだあッ!」

 もうやめて、ゆるして、と叫ぶ声は無人の部屋に虚しく響くだけで、懇願が聞き届けられることはない。

「ひ、ぐぅ、」

 ぬぷ……と壁を押し広げて入ってくるものの太さに、手ぬぐいの下で桂は目を剥いた。

 蕩けた肉を無数の疣が散々に抉って、揉んで、叩いて、暴かれたことのない場所を開いていく。

 内臓を捻り潰されるような圧迫感に息を吸うこともままならないのに、そのまま抜き差しされてはたまらない。

「いッ、やぁっ、だ、あっ……あっ、あ、ひあァっ!」

 嬌声すら途切れ途切れになって苦しい。勃ち上がったものから滲んだ先走りが落ちて、汗塗れの下腹を濡らした。

 射精を阻むものさえなければ、吐き散らかしていただろう。

 よどんだ快楽を掻き乱すように後孔のものが震え始めて、桂は絶叫して仰け反った。



○●5●○


 動かすことのままならぬ身体を悶えさせ、大股開きのまま腰をだらしなく突き上げて、揺さぶって。

 あまりにあられもない姿勢のまま、桂は数瞬意識を飛ばしていたらしい。

 凶悪な太さと長さのものを引き抜かれる間隔に、知らず安堵の溜息が零れる。

「も、もう気が済んだ……だろう……?」

 足が自由に動くとわかり、手が動かせないなりにどうにか姿勢を整えようとする。

 畳を蹴るようにして半端に身を起こしたところで、無機質な玩具とは違う、熱をもった怒張が押し当てられていた。

「っひ……!?」

 小さく息を呑んだだけで、後は何もさせてもらえなかった。

 ずん!といきなり根元まで突き入れられ、桂は何か叫んだかもしれない。そのまま滅茶苦茶に穿たれ高められ、けれどもうおぞましさも恐ろしさも感じなかった。

「あ、んっ……ぎん、ときっ……!」

 縺れる舌が辛うじて名を紡ぐ。もうまともに思考する余裕など残っているはずもなかったけれど、幾度となく夜を共にした身体は覚えていた。

「ぎんっ、あッ、あ……ぎんときぃ……」

 なんで、たすけて、いきたい、きもちいい。……すきだ。

 支離滅裂な単語を垂れ流す唇が不意打ちで塞がれた。

 触れることなんてできないのに、確かにはっきりと感覚がある。

 いつものようにぐるりと歯列をなぞってから、舌先で上顎を執拗に擽る。舌を優しく絡め取られて甘噛みされる。

 鼻水まで垂らして泣き喚いていた上に口まで塞がれて、息苦しさに桂はむずかって首を振った。

 朦朧とした意識はいつも以上に敏感に成り果てて、見えない、存在すらしていないであろう銀時の手が齎す快感を貪欲に拾い上げる。

「んあぁっ、あ、う……?」

 肉筒で感じる銀時自身がずしりと大きさを増したのを感じて、桂はいつものように叫んでいた。

「銀時ぃっ、いっしょに……いっしょにイきたいっ……!」

 その声が聞こえたわけでもなかろうに、ローターが取り去られ、勃起を貫いていたものが勢いよく引き抜かれた。

「イく、イけるっ……ひぁッ、うああぁああァッ!!」

 耐えに耐えさせられた絶頂にようやく辿り着けた。

 激感にうねる内壁も跳ね回る身体も精液を吐き散らかす性器も、何一つ己の意志の及ぶところにはなくて、桂は髪を振り乱し啼いて身悶えるしかない。

 胸や腹に自身の白濁を全て浴び、弛緩した身体が畳に伸びる。

 萎えたものから漏れていく温みをおぼろげに感じながら、桂の意識は薄れていった。



○●6●○


『桂さん?』

「あ、ああ……すまんエリザベス」

 全身を駆け抜けたのは目も眩むような快楽で、うっかりボールを落とした桂はぱちくりと瞬いた。

 脳裏を過るうっすらとしたビジョンはなんだ。こんな真っ昼間から淫らな妄想に囚われるなんて。

 こんな不埒な考えは、身体を動かして払うに限る。

 幸い転がった硬球を拾い軽く肩を回すうちに、先程までの恥ずべき幻影は驚くべき速さで薄れていった。

「エリザベス!! 油断をするな……」

 入魂の一球を放つべく、桂は大きく振りかぶった。

 

初出:2015/02/16(pixiv)