おしり

 

 親切心から子猫探しを手伝ったのはいいけれど。

レグルスが楽々、エルシドも辛うじて通り抜けた生垣に尻が支えて、最後には聖剣で強引な剪定をする羽目になった。

己の右腕とも言える青年を庭師代わりに働かせている間に、迷い猫は甥っ子があっさり見つけた。

 

上衣の裾でリンゴを擦るカルディアの表情は、年相応と言うにもあまりに幼い。

「それでシジフォス、えらいショック受けてるんだと

笑いを堪えきれない声でたわいもない話を打ち切って、掌で転がしていた果実に齧りつく。

近隣の村から献上されたそれは、勿論最も出来のいいのばかりを選りすぐったもの。

爽やかな香気が僅かに離れて立つデジェルの鼻腔をも擽って、忘れかけていた空腹を思い出させた。

目の前のカルディアは実に美味そうに赤い実を平らげている。

瑞々しいそれから溢れた果汁が手を濡らし、顎を伝い、首筋まで流れていく。

そっと舌先で舐め取ったら、さぞや甘美な味がすることだろう。

舌を蕩かす甘さはリンゴのものなどではなくーー。

 

「デジェル

 

不意に突き返された現実では想い人が目と鼻の先で仏頂面を浮かべていた。

思わず仰け反ったデジェルの反応に、流石にカルディアも眉根を寄せた。

「デジェル、お前大丈夫か

「ああ……」

頭を振って夢想を脳内から追い払う。

その胸中を知ってか知らずか、カルディアは瞳を眇めて笑うのだった。

「そういうことだから、お前も少し気をつけたほうがいいぞ」

氷に閉ざされた国の糧は、太陽に愛された地のそれとは随分と違う。

常の食事を思い浮かべ、反射的に腹回りや腰に手をやってしまった友人に、毒のように甘い声がいたずらっぽく囁いた。

「それともひとつ、俺と運動でもしてみるか

 

初出:2015/12/26(Twitter)