酒の勢いに身を任せれば或いは、とか。いやいやそれって普通にズルだよね?っていうかかっこ悪いよね!とか。でも俺の特技は絡め技だから卑怯上等じゃね?とか。
熱が出るかと思うくらい散々悩んで、考えて。
ようやく結論が出たのは、万事屋主催のパーティー前夜のこと。
死闘の末に悲願を果たし、今やお尋ね者のテロリストから名実ともにこの国の“暁”になった銀時のツレは、創痍も癒えきらぬうちからバリバリ働きまくっていた。
そうやって動き回るのが性に合っているようだから銀時だって何も言わないけれど、それでも万事屋にめっきり顔を出さなくなったツレには思うところがある。
そんな多忙な桂を捕まえて、彼の新政府入り記念に真選組復活記念に皆の快気祝いにと、諸々の理由で内輪だけのパーティーを開くことを納得させたのは神楽だった。
――銀ちゃん、お膳立てはしてやったからナ。
そんなしたり顔を咎める余裕もなく今にいたるけれど。
「あーやべェ、なんか腹痛くなってきた……」
掌にすっぽり収まるそれを見て、ぐちゃぐちゃのカンペを読み返して、銀時は癖っ毛を掻き乱した。
翌晩。ヒーロー、主賓の一人は遅れてやって来た。
今や自身の警護につくことになっている真選組の面々を従えて、桂がスナックお登勢にやって来たのは宴が始まって二時間も経ったころ。
「会議が長引いてな。遅くなってすまなかった。お登勢殿、これよかったら」
にこやかに挨拶してお登勢に花とお高い日本酒を差し出している桂と、スナックのど真ん中に突っ立っている銀時とを何対もの瞳が興味深く眺めている。
二人の行く末を気にかけ心を砕いていた子供二人。不自然なほどに神妙な顔で煙草を揉み消した土方。体裁を取り繕うこともせず堂々とスマホで動画を取っている沖田に録画モードをオンにしているたま。普段はばかにうるさい坂本も、酒を飲むことも忘れ二人を見つめていた。
「オイ、ヅ……桂」
「桂じゃな……くない、銀時じゃないか」
遅れて悪かった、と詫びを繰り返す桂の顔を銀時は碌に見られていない。銀さん、ここ正念場ですよ。そう呟いた新八の声が聞こえたのか否か、とにかく銀時は勢いよく顔を上げた。
「桂、」
「そうだ銀時、お前に渡したいものがあるんだ!」
決死の呼びかけを叩き切った桂がずかずかと銀時に歩み寄った。
仕立ての良いスーツのポケットから出されたのは、明らかに万事屋の給料三ヶ月分じゃすまないそれ。
「思えばお前には迷惑や心配ばかりかけた……きっとこれからも苦労をかける。それでもやはり、俺が生涯を共にしたいのはお前なんだ。これを、受け取ってはもらえんか」
流れるようなプロポーズの言葉。一応問いかけの形をしていたものの、銀時の返事も聞かず左手の薬指にそれをはめた桂は、そこでようやく冷え切った周囲の視線に気がついた。
「……あり?」
「オイテメェヅラァァァァァァ!」
「ヅラじゃないかつ、」
「ウルセー黙ってろアホ!! お前、俺が言おうと思ってたこと全部言いやがって!! あと俺のカンペに残ってんの、ガキの頃からオメーに惚れてた、好きだって下りだけじゃねーか!!」
今度の沈黙は長かった。
「……アレ?」
今俺何言った?もしかしてすげーまずいこと口走った? 青ざめて首をかしげる銀時と、その前に立ち尽くし頬を染める桂のことを、最早誰も見ていなかった。
「あーくだらねェ、ビール一つくだせぇ」
「未成年に出す酒はないよ」
「先日成人したばっかでさぁ」
沖田がスツールに腰掛けたのを皮切りに、皆次々と席に着いていく。
視線から解放されて、一つ溜息。比べるべくもない安物を桂の左手の薬指へ。
「二度と言わねーからな」
「……構わんさ」
ここにいる皆、最後の告白の証人だから。
初出:2015/03/15